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第14話 アイドル・コネクト

 ソシャゲ界トップクラスの大手企業が世に放った最新作。


 アイドル・コネクト。


 かわいい女の子だけでチームを組んでモンスターを倒すゲームだ。


 二日目はひたすらレベルをあげる作業に徹した。


 アイドル・コネクトはプレイヤーレベルとキャラクターレベルがある。


 大原則、キャラクターレベルはプレイヤーレベルまでしか上げることができない。


 以下、キャラクターレベルをCレベル、プレイヤーレベルをPレベルとする。


 Pレベルが十の場合、Cレベルを十まで上げることができる。


 しかし、Pレベルが十の場合、Cレベルを十一や十二にすることができない。


「良いか。アイドル・コネクトにおいて大事なのはPレベルのレベリングじゃ」


動画のゲーム実況者が伝えている内容をセブンはちょっと言い方を変えて復唱。


「キャラクターを強くするにはプレイヤーのレベルを上げるしかないぞい」


 カインたちの目指すストーリー全クリ、Pレベルの上限達成、対人戦一位。この中で一番難しいのはもちろん対人戦一位だ。トップレベルの層と勝負するには、まずはキャラクターを強くするしかない。それすなわちプレイヤーのレベルを上げること。


 カインは望というリセマラSSランクのキャラと初期キャラの四人。計五人でストーリーを進めた。


 ほとんどのソシャゲはスタミナ消費でストーリーを消化する。スタミナはレベルが上がると全回復する。つまり序盤は、ストーリーだけを中心に進めることでがっつりレベルが上がり、スタミナの自然回復を待つ必要がなくなる。


「ガチャを引いてはいかんぞ」


「はい。先生」


「ジュエルはスタミナ回復に使うのじゃ!」


 アイドル・コネクトのストーリーを進めると大量のジュエルがもらえる。ほんらいはジュエルでガチャを回して強いキャラをゲットするのが普通だが、ことアイドル・コネクトにおいてガチャは闇鍋であると認識している。なぜなら昨日、大量にガチャを引いて爆死した事実があり、ガチャの闇を経験済みだからである。


 カインは昨日、百連近くガチャを回して最高レアリティの星三を一人しかゲットできなかった。しかもその星三は、イベントを進めると簡単に手に入るキャラだった。


 アイドル・コネクトの提供割合は以下の通り。


 ★★★キャラ 2%

 ★★キャラ  18%

 ★キャラ   80%


 最高レアリティの星三をゲットするにはたったの二%を突破するしかない。


 これは五十連して一人出るかどうかの確率。


 むろん十八%星二でもリセマラランキング上位に食いこむキャラもいる。しかし、対人戦で勝つにはどうしても星三キャラが複数必要だった。


「出るかどうか分からない二%を追い求めてはいかぬ。ジュエルはスタミナ回復のみに徹し、キャラの欠片で星三キャラをゲットするのじゃ」


「はい、先生」


 これまた昨日プレイしたから分かることなのだが、アイドル・コネクトでは、最高レアリティの星三キャラを、キャラの欠片というものを百四十五個集めれば解放することができる。すなわち苦労してジュエルを入手し、ガチャを引いて二%をクリアしなくても最高レアリティのキャラを手に入れることができるのだ。もちろんキャラの欠片は一日三個程度、多くて二十個程度しか入手できないが、けれども毎日コツコツと貯めれば一か月で星三を三人は手に入れることができる計算だ。


 カインはひたすらストーリー一章の一を回った。スタミナがなくなればジュエルを割ってスタミナ回復し、回った。


 アイドル・コネクトは全部のストーリーで入手できる経験値が決まっている。


 なぜか一章の一が一番スタミナ消費量と経験値の効率が良いのだ。


 これまた昨日、良いところまでプレイしたからこそわかる情報だ。


「さて、カイン君。分かっていると思うが対人戦のアリーナ開放は四章をクリアした瞬間じゃぞ」


「はい、分かっております」


 アイドル・コネクトの対人戦システム、アリーナ。


 アリーナで一位をとる方法は主に三つ。


 一つ、スタートダッシュを決めて課金しまくり、カネの力で一位をとる方法。


 一つ、ジュエルで対戦権を消費し、メタゲームを考えてひたすらのし上がる方法。


 一つ、アリーナ開放の手前で待機してレベル上げをする方法。


 カインは三つ目のアリーナ開放の手前で待機してレベル上げをする方法を選んだ。


 アイドル・コネクトのアリーナは先着順で解放されていく。


 仮にアリーナのグループ一が三千人だったとすると、三千一人目からはグループ二に放り込まれる。アリーナのグループが解放される条件はアリーナに参加する人数がある一定のラインを越えた時であり、待てば待つほどそのグループには新規がたまりやすくなる。


 最初期に始めたプレイヤーがアリーナのグループ一に放りこまれ、一週間遅れに始めたプレイヤーがアリーナのグループ十に放りこまれ、一か月遅れに始めたプレイヤーがアリーナのグループ三十に放りこまれる。


 このようにアリーナではゲームを始めた初期組が有利にならないようなシステムを採用している。


 アリーナは四章をクリアすると解放され、強制的にその時のグループに放りこまれる。四章は一日あればクリアできる内容なので、つまり、カインは、一か月がっつりレベリングをして、一か月後に四章をクリアすれば、ゲーム開始一日目のプレイヤーだけのグループで勝負できるのだ。この差は大きい。


 対人戦で一位をとるのは、何も初期組の廃課金が跋扈する死のグループ一でなくて良い。初心者だらけのグループ百とかで良いわけだ。


「ゲームを始めて二日目にしてその考え方。合格じゃ。あとはPレベル上限の八十五にしてからストーリーを全部クリアするだけじゃ」


「はは。ありがとうございます。これも先生とゲーム実況者のおかげです」


 セブンに褒められた。すべては昨日プレイしてゲームの感覚を掴んだのとパソコンの動画でゲーム実況者の解説を聞いていたおかげだ。


 アイドル・コネクト問わず、すべての物事には何事も予備知識を入手し、シャドーボクシングのように相手を想像してシミュレーションしておくことが大切だ。


 いきなり本番で成功するのは天才と一部の運の良い人だけ。


 受験でも毎日コツコツと勉強し、試験対策を行い、成功者の真似をして万全の準備を整えた者だけが美しい桜を見ることが許される。自分の成績を知り、学校の難易度を理解するのだ。


 人生、事前に知識を入手しておくと何とかなることが多い。


 カインはお試しプレイ、ゲーム実況者の大切さを十二分に理解した。


 彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し。


 孫子の謀攻より。


 故事ことわざ辞典によれば、意味は、敵と味方の実情を熟知していれば、百回戦っても負けることはない。敵情を知らないで味方のことだけを知っているのでは、勝ったり負けたりして勝負がつかず、敵のことも味方のことも知らなければ必ず負ける。となっている。


 アイドル・コネクトのアリーナはメタゲームを理解していれば八十%の勝率を叩き出すことができる。


 カインはレベル上げと同時並行でアイドル・コネクトのメタゲームを勉強することに決めた。


 主な知識はセブン、ゲーム実況者から吸収する。


 アイドル・コネクトは人気ゲームであり、動画配信者が多数存在する。


 パソコンの画面とにらめっこしながらアイドル・コネクトに詳しいゲーム実況者を探し、その人の動画を何時間もかけて見続けた。


☆☆


「八十五レベル達成だ!」


「おめでとう。カイン君」


 沖縄に上陸して一か月後、カインとセブンは歓喜の声を上げた。


 朝も昼も夜も、寝る以外のすべてのことをゲームに費やした。


 結果、目標のレベル上限に達したのだ。


「長かったよ、長かった先生。ゲームがこんなに楽しいなんて思ってもみなかった」


「じゃろう? 意味のないことに全力で挑み達成した時の達成感は美味じゃろう?」


「ああ、今の僕は最速で全クリできる自信がある」


 カインの手持ちはリセマラの望と初期キャラのみ。


 けれども望は★★★★★の星五。初期キャラも星三に達していた。


 ジュエルはスタミナ回復以外使っていない。


 この一か月、配布ジュエルとイベントでジュエルはたまりにたまっていた。


「いけっ。今こそガチャをするときぞ」


「はい先生。ガチャります」


 結果、爆死。


 カインは地面に両の手と膝をついてむせび泣いた。しかし、アイドル・コネクトにおいて爆死は悲しいことばかりではない。なぜなら爆死したキャラは欠片となり、他のキャラの星をあげることができるのだ。


 これによりカインの手持ちは★★★★★の星五、望。と★★★★の星四初期キャラ四人になった。


 さっそく四章をクリアしてアリーナを解放する。周りは初心者ばかり。星の数は三が最高。負ける気がしなかった。


 ジュエルを割り、対戦権を増やしメタゲームを考え、カインは勝率百%でアリーナを駆け上がる。


 結果、一位をとることに成功。


 セブンと抱き合って喜んだ。


 その日のうちにアリーナ一位をとったカインの行動は早かった。


 一か月で会得したノウハウを生かしてストーリーを進める。


 アリーナの強化版であるプリンセス・アリーナを解放する。


 そこでもカインは一位をとった。


 五時間ほどでカインはアイドル・コネクトのすべてのストーリーをクリアする。


 全クリの達成である。


「先生、僕は何も言うことはありません。うれしい、うれしい、ただそれのみです」


「ようやった弟子よ。私に教えられることはあと一つ。よく聞きなさい。人生すべては三すくみ、メタゲーム、何らかのルールや秩序によって構成されておる。何事も敵を知り、己を知らば百戦全勝できるぞい」


「ははっ。ありがとうございます」


 カインとセブンは握手した。熱い友情の握手だった。


 思えばセブンと不可思議な縁を築いたものだ。


 最初はタニザキさんを苦しめる憎きクマタニの手下として、その圧倒的な力を見せつけられた。強化人間は終わったと思った。けれども、この一か月間、セブンの弟子となり、ずっとゲームをしながら寝食を共にしてみれば印象は百八十度変わった。


 すごく楽しかった。


 偉ぶりながらも人懐っこい幼女型アンドロイドは、まるで電脳アイドルのごとく、大和丸のみんなに、きっと、慕われるだろう。


 セブン。電脳アイドル。アイモリclub。


 そこでハマダさんを思い出し、一つの真実に気づく。歓楽街でショーをしながらもずっと声優の仕事を渇望していた彼女に、ぴったりな仕事があった。


 ゲーム実況。それもバーチャル動画配信者で、だ。


 バーチャル動画配信者とは別名バーチャルユーチューバーともいわれ、2Dもしくは3DCGなどのアバターを持った配信者を呼ぶ。


 アバターにモーションキャプチャやリップシンクなどの技術を使用して演者の動きをある程度反映させ声を当てて配信する。その担当する演者は非公開というケースがよく見られるが、大方、声優さんが担当する。


 ハマダさんが声を当ててゲームをし、それにアバターの動きをつけて配信するバーチャルユーチューバー。これは売れるかもしれない。アイモリclubの新たな路線拡張の、要は、ビジネスチャンスだった。


「さて、最後の仕事に入ろうかのう」


「え、仕事?」


 ゲームじゃないのか? 一瞬そう言いかけてカインは口をつぐんだ。


 セブンの雰囲気が変わった。


 画面が制止する。景色は白黒に覆われて時間が止まったかのような錯覚に陥る。


 美しかった沖縄はモノクロ写真の一部になったかのごとく息を止めてしまった。


「範囲は沖縄全域。ウィルスはクラーケン。空気感染の始まりじゃ」


 何がどうなったは想像に難くない。


 しかし、言葉に言い表せない。


 それがすごすぎて、常軌を逸しすぎて、カインは口をあんぐり開けたまま固まる。


 セブンがカインの方に振り返る。


「完了。お疲れ様じゃ。大和丸に帰るぞい」


「先生、何を、したんだ?」


「なあに、ちょいと沖縄にいるクラーケンを全部殺しただけじゃ」


 空気感染によるクラーケンの撲滅。


 は? とカインは何度も思わずにはいられない。


 セブンは生態をすべて壊してしまうほどの能力を有していた。


 クラーケンは空気感染でイチコロ。なら、人間ならば?


 カインは想像した。僕らはとんでもない聖遺物を掘り起こしてしまったのではないか、と。


「安心せい。ロボット三原則により人間に手出しはしない。人間の命令以外では人間を殺さぬよ。それよりもさっさと帰るぞい。臭くてシャワーがなければやってけぬ」


「ああ」


「ああ、それと。私が空気感染でクラーケンを殺せることはクマタニにも内緒ぞ」


「なぜ?」


 セブンは含みを持たせて答えた。それは狂気に満ちていた。


「クマタニが私を使って大和丸の人間を全員殺すかもしれぬからじゃ」


「分かった。重々承知した」


 カインは戦慄を覚えた。


 同時に諦念も持ったかもしれない。


 タニザキさんVSクマタニ。


 強化人間VSセブン。


 それは避けては通れない道のような気がしたから。


「なあ、先生」


「なんじゃ?」


「最後に一つだけ頼みたいことがある」


「言うてみ」


「先生とバトルになった時の攻略法を教えてほしい」


「よかろう」


 大和丸に帰るまでの間。カインはセブンの弱点をひたすらに勉強した。

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