第13話 全力無意味
沖縄上陸から二日目。
旧型のスクール水着に身を包んだセブンと一緒にゲームをする。
「なんで旧スクなんて着てるんだ?」
「旧スクは文化」
「いや、なんか違うだろ。不倫は文化、みたいな言い方されても困るから。そもそも元ネタだって記者が偽装してつくったって噂だろ? 僕は騙されないぞ」
「嘘じゃよ。開発者の趣味じゃ」
セブンを開発した人の変態性は昨日一日で嫌というほど味わった。
もはやセブンを見た目年齢同様の純粋無垢な女児に戻すことは叶わないだろう。
カインはあきらめて海辺に敷いたシートに腰を下ろす。
「僕たちは沖縄を調査しに来たはずだろう。ゲームで時間を潰してもいいのか?」
「カインを人質にする。クマタニの目的はもう十二分に果たした。あとは、煮るなり焼くなり好きにゲームするなり我々の勝手じゃ」
「本当に末恐ろしいな、お前」
ざっと沖縄を散策した結果、脅威となる小型、大型のクラーケンはいなかった。
セブンの調合するウィルスを使えば沖縄のクラーケンは感染して全滅そうだ。
なので、カインたちは一か月間、ソシャゲのゲームに没頭することにした。
ほぼセブンの脅迫に近かった。クラーケンどもを駆逐してほしければゲームに付き合えと暗に仄めかしていた。
「良いか、ゲームは一日一時間という標語が存在する」
「はい、そうの通りでございます」
「しかし、そんなものは、まやかしじゃ。一日一時間のゲーム。なるほど、たしかに空いた他の時間を勉強や仕事にあてれば……要は自己投資すれば、たしかに、本人にとってプラスになるじゃろう。理にかなっておる。だからなんじゃ、そんなことでは真のゲーマーにはなれん」
「ははー(何言ってるんだ、こいつ?)」
「勉強も運動も仕事も何でもできる。そんな器用な人間になって何が幸せか。真のプロフェッショナルとは一つのことを何度も何度も繰り返したもののことじゃ。芸術家しかり、彼らは同じテーマを追求し続けておる。ゲームもそれに倣え。真のゲーマーならばゲームは一日二十時間じゃ!」
機械的な、というより機械そのものであるはずのセブンが、生気をたぎらせながら熱弁する。ゲームは一日二十時間と豪語する。
「カイン君。これより一か月間、朝も昼も夜もゲーム漬けの生活を送る。寝る以外のすべてをゲームに捧げるのじゃ。一日二十時間×三十日間=六百時間ゲーム武者修行の始まりじゃ!」
「ええっと、どうしてそんなことを?」
「決まっておるじゃろう」
セブンの答えに、カインは妙に納得してしまった。それこそがセブンが最も欲しがっている人間性というやつだったから。
旧スクに身を包んだセブンは見た目年齢と変わらない幼子のように宣言した。
「全力で無意味だから!」
沖縄に上陸して二日目の朝。
カインの青春が始まった。
齢十七にして強化人間の訓練だけしか経験しなかった男が青春を経験する。それは恋かもしれないし、部活動なのかもしれない。バイトでもネットビジネスでも何でもいい。一つだけ言えることがある。
まったくもってくだらない。
十七の男が旧スクの幼女と無人島で一か月を過ごす。
しかも睡眠時間以外のすべての時間をゲームに捧げる。
そんなどうでもいいことに全力をかけて挑むのは、それは……間違いなく……、
全力で無意味であり、青春そのものである。
一つだけ言えることがある。
まったくもってくだらない。
死ぬほどゲームするゲーム漬けの毎日も青春であった、と。断言できる。
☆☆
さてっと。本題に入る。
セブンから命令されたのは一か月の間にとあるゲームのレベル上限に達成し、ストーリーを全クリアして対人戦で一位になること。これだけ聞くとハードルが高いように思われるかもしれないが、ことソシャゲに関してスタートダッシュと課金によってはどうにでもなる要素が大きい。
とあるゲームの名前はアイドル・コネクト。
何人ものアイドルを育てながら、異世界で魔物と戦うファンタジーゲームだ。
「まずは昨日やったデータをアンインストールするぞい」
「なんで?」
「一週目は様子見。二週目からが本番じゃ」
ソシャゲではストーリーを進めた経験者が、新たにスタートすることを俺ツエーに例えられる。ソシャゲで無双だ。なぜならば一週目でソシャゲのノウハウを会得し、再度始める、リセマラした二週目の方が圧倒的に優位に進めれるからだ。
「カイン君。ソシャゲでは最初に決まった石がもらえる。これはゲームによって様々じゃが、オーブともクリスタルともジュエルとも呼ばれておるものじゃ。課金して手に入れる石。それらは最初にもらえる量とストーリーを進めることによってもらえる量が決められておる。じゃから二週目では石を節約しつつ、必要なキャラだけを狙いに、無双できるというわけじゃ」
「まあ、そういうことならアンインストールするよ」
カインはスマホを取り出し、昨日進めたアイドル・コネクトを消す。
そして、再びインストールし、リセットマラソンを開始する。
リセットマラソン略してリセマラとは、最初に無料で回せるガチャで目当てのキャラをゲットするまでゲームのインストールとアンインストールを繰り返すことだ。
リセマラはゲームによってばらつきがあるが、一回につき、だいたい五分から十五分ほど時間を必要とする。ゲームの中では環境をぶっ壊すような新キャラがたびたび登場するのでリセマラは必須になる。何が言いたいのかというと、五万や十万使ってやっと出るようなキャラが、リセマラでは無料で手に入れることができるのだ。そのため古参プレイヤーでない限り、リセマラは無課金の星となる。
「ぶっちゃけインフレを繰り返すのがソシャゲじゃからな。リセマラしてゲームに飽きたら再度リセマラ。こうして無課金で楽しむのが長続きするコツじゃ」
「あい人工知能。なんでそんなにソシャゲに詳しいんだよ」
「知らん。たぶん開発者の趣味じゃろう。あらゆる娯楽に精通するため、ことゲームに関しては全力をもって挑むようにプログラムされておるのかのう」
「いやいや完全にお前の趣味じゃん」
「たわ言はいいからさっさとリセマラするのじゃ」
カインたちの目的はアイドル・コネクトをクリアすること。それもたった一か月でしかも無課金で、重課金者や廃課金者に勝たなくてはならない。
厳しい厳しい目標だった。
「良いか、カイン君。何事も一位になるまでやりこまねば身につかぬ。たかがゲームされどゲームじゃ。どんなクソゲーでも世界一位になれるようなやつが大成する」
「それって集中力が身に付くから、かな?」
「いや、ちょっと違うぞ。人生生まれたからには自分の好きな分野くらい世界一位になれば見える景色も違ってくる。もちろん勉強や仕事で一番になるのが最も良いのじゃが、大多数の人間にそんなこと不可能。じゃから、ゲームで一番じゃぞ」
アイドル・コネクトでは対人戦要素が存在する。アリーナと呼ばれるもので、自分のキャラクター五人VS相手のキャラクター五人で戦わせるのだ。
最初一万位くらいからスタートし、一日五回の攻撃権を駆使してランクを上げる。もちろん課金することによって一日の攻撃権を増やすことができる。
前述したようにアイドル・コネクトには重課金、廃課金がうごめいている。なので無課金でアリーナ一位をとるのは至難の業だ。
不可能を可能にする。ゲームを極めるとはそういうことだ。
なんか人生のためになるとか、今後の就職に有利になるとか、そんな俗物的な理由ではない。友達をつくるためのツールとして考えれば便利だが、そんな器用な使い方はできない。ゲームを極めるとは、不可能を可能にする遊び。要するにたった一か月で成功体験を得ることができる究極の娯楽なのだ。
「アイドル・コネクトに何十万、何百万と課金する猛者がいる。ただの電子データなのに、のう。百万までは無理のない課金だから無課金です、と言い張るバカもおる。でも、その理由がなんとなくわかってきたじゃろう?」
「無意味なことに全力で楽しんでいるから、か?」
「その通りじゃ。生産性のない娯楽に大切な時間と車が買えるほど大金を注ぎこむ。そんなやつは大成する。ゲームを極めて世界一位になれるようなやつは何百万、何千万もの収入を得るじゃろう」
「まったくバカと天才は紙一重だな」
「良いか、カイン君。一位になるんじゃ。二位じゃダメなんじゃ。どんなくだらないことでも一位になることが人生の醍醐味じゃ。人間らしいと思わないかの?」
「ああ、わかった。アイドル・コネクトのアリーナで一位をとってみせるよ、先生」
カインはゲームをバカにしていた。ゲームとは時間を浪費し、勉強や部活、成長の妨げになるものだと思っていた。しかし、ゲームにも譲れないものがある。かつての漫画は読むと頭が悪くなると言われたように、ゲームにも不遇の時代があった。しかし、そんな時代を乗り越えてきたのがカインの世代だった。ゲームを続けても勉強も部活も頑張れる、なんだったらゲームのおかげで人生がバラ色になった。かの秀才、天才たちは、ゲームは有意義なものだと証明してきたのだ。
どんなに無駄に見えるようなもの、分野にも必ずプロはいる。プロまで極められる人はどんな困難に見舞われようとも打ち勝ってこれる。セブンはカインに一つの物事を極めると見えてくる景色を伝えたかった。それは比べ物にならないくらいの贅沢で青春であったから。
「でも先生。本当にアイドル・コネクトを全クリし一位になったら見える景色なんてあるんですか?」
「バカモノ。さっさとリセマラを済ますのじゃ」
アンインストールする。インストールする。五分でチュートリアルをクリアする。ガチャを回す。目的のキャラが出ない。アンインストールをする。インストールを、以下略を延々ループする。
カインは一時間ほどリセマラをし、飽きてくる。インストールする時間、待機しているだけなので体を動かしたり、ラジオ体操したりして暇を潰した。
セブンは延々、共闘で寄生している。
寄生とは、スタミナを使わずにソシャゲをプレイする方法。他人のスタミナを利用し、共闘してモンスターを倒し、アイテムをゲットしている。
違法行為ではないが、オススメできる行為でもない。
カインはセブンに対して、ちょっとは体を動かしてはどうだ? と忠告すると、逆に怒られた。
「阿呆。真のゲーマーとは四六時中ゲームするものだぞい。トイレはペットボトル、食事はコンビニか出前、保存食じゃ。それ以外すべてゲームに注いでこその世界一位なのじゃ!」
「そんな世界一位は嫌だ」
海辺でおしっこを漏らされては困るので簡易トイレを用意する。
簡易トイレを用意してからふっと気づいたが、セブンはアンドロイドなのでトイレは必要ない。エネルギーは太陽光を利用しているので食事も必要ない。
とどのつまりセブンなる旧スク水の幼女は廃ゲーマーの必要条件を十分にクリアしていた。
太陽光のない深夜のみ、月明かりと睡眠モードが必要になってくるらしい。
せっかく用意した簡易トイレが利用されないまま放置されるのもかわいそう。
カインは用を足す。そして簡易トイレに砂をかぶせて消した。
まったくもって不毛なサバイバル生活だった。
セブンがいなければ毎日ゲームなんぞ絶対にしていない。
「なあ、お前さん。そんなに暇なら動画を見るかや?」
「動画?」
リセマラが終わらないカインは暇を持て余していた。それこそ簡易トイレをつくっては自身で用を足してすぐに壊す、くらいには暇だった。
セブンからの提案は渡りに船。暇つぶしなら大歓迎。動画を見たい、と返した。
「カイン君。リセマラをしながら動画を見るというのは大変有意義なことなんじゃ。なぜならゲーム実況者という肩書の動画配信者が世には溢れておる」
「ほうほう、動画配信者、ね」
持ってきたパソコンの電源を入れて動画配信サイトに行き、アイドル・コネクトを検索する。
共闘をやりながらセブンは説明する。
「ゲーム実況者はソシャゲ攻略になくてはならぬ存在じゃ。中にはガチャ動画だけをあげてバカみたいに視聴者を増やすものもおるが、真のゲーム実況者であれば、頭の良さをみせねばならぬ」
「頭の良さとは?」
「もちろん最高難易度のイベント攻略じゃよ。スタミナ回復を満遍なく利用し何十回も何百回も挑戦し、己一人で最高難易度を達成したゲーム実況者にこそ価値がある。私はそう思う」
「セブンのいう、一つのくだらないことを、極めるってことかい?」
「そういうことじゃ。全力で無意味じゃろう」
まるで僕たちみたいだ。カインは思った。
僕たちみたいに一か月ぶっ通しにゲームしてアリーナで一位を目指す。なんて不毛なのだろう。ゲーム実況者こそ世界最大の大バカモノにして大天才だ。カインはつくづく思った。
リセマラしながらゲーム実況者の動画を見て参考にする。
「人生とは同じことの繰り返しじゃ。それをいかに楽しんでできるか。成功するコツは阿呆になること。阿呆になって不毛な行為を全力で楽しむのじゃ」
セブンは悟りを開いたジジイみたいなセリフを述べる。
正午。カインの孤軍奮闘は実を結び、約五時間のリセマラが終了する。
アイドル・コネクトにおいて利便性ナンバーワン。前衛タンクの望を引き当てる。
ここからカインの逆襲劇が始まる。世にのさばる課金集団を叩きのめすための。




