第12話 沖縄上陸作戦
沖縄奪還作戦で大型のクラーケンを倒すことに成功。
大和丸の最高責任者であるクマタニは次の手に出る。
沖縄に軍の拠点を築き、本格的な日本奪還作戦を発表した。
しかし、沖縄はいまだに多くの小型クラーケンが残っている。
殲滅作戦を執行するため、まずは調査する必要があった。
沖縄上陸作戦。
沖縄に残っているクラーケンの数や種類、また、居住できる場所の調査。
その先遣隊にカインが選ばれた。
「突然ですね」
「いきなりの命令で私も困惑してる。しかも先遣隊は二人。君とセブンらしい」
副館長室でタニザキさんに命令を受ける。
期間は一か月。その間、セブンと二人で行動を共にしなければならない。
ヒアリングが終わり、アイモリclubの活動がこれからというときの命令。
沖縄が今後の重要な軍事拠点ということは理解できるが、何分急で理解を苦しむ。
「おそらくこれは私へのけん制だろう。セブンを手に入れてクラーケンに対してマウントを取れる立場になった以上、今度は内部の敵を黙らせるはずだ。日本軍総司令になるため、クマタニは強化人間とその管理者である私に政治的圧力をかけるだろう」
「僕をセブンと二人きりにさせてどうするんです?」
「最悪を想定した場合、クマタニは君を殺すつもりで先遣隊に選んだ」
「殺すつもりで……」
大型のクラーケンを倒したけれど、沖縄にはまだまだクラーケンが残っている。
調査団を派遣する場合、十分な人材と食料を持って挑むのが普通。
しかし、今回の作戦でクマタニはセブンが強いことを理由に、先遣隊は二人で十分という結論に達した。
「もちろんカイン君の力は私も認めている。小型のクラーケンを相手取っても簡単に死にはしないだろう。セブン自身、とても良い子だ。しかし、彼女には強制モードが存在する。その気になればクマタニはセブンを操ってカイン君を殺す」
「待ってください。強制モードのセブンに僕は持たざる者と揶揄されました。そんな風にバカにしたやつを、クマタニはわざわざ殺しますかね?」
タニザキさんは少し考えてから自分の考えを明かす。
「これは私に対してのけん制だ。調査期間は一か月。おそらくその間にさらなる改革をクマタニは実行するだろう。それも軍部に関するもののはずだ」
「それと僕が沖縄に行くのとどういう関係が?」
「人質だよ」
クマタニは軍部の改革をするのにタニザキさんを煩わしく思っている。
邪魔されないために、カインを殺すぞ、とタニザキさんに脅しをかけている。
「それは見逃せません。僕は行かないほうがいいですか?」
「いや、上からの命令、断れば左遷か最悪クビだ。私のために君が不利益をこうむるのは得策ではない」
「わかりました。大人しく人質になります。セブンに対して僕は何をすれば?」
「こちらの心配はしなくて大丈夫だ。私がなんとかしよう。セブンの通常モードは根の良い子なので、楽しんできてください」
必要最低限の装備をもらい、カインは大和丸を降りる。
スマホで、一か月間仕事に行くと伝えると、アイドルたちは悔しがっていた。
そりゃ、カインもオミナやメリーとのデートは楽しみにしていたが、何事もうまくいかないのが人生というもの。逆に考えると思い通りにいかないから人生は楽しいのだ。通常モードのセブンとの会話を楽しむとしよう。カインは大和丸を降りた。
小型船ボートで一時間。日本の最南端にある県。沖縄に到着する。
沖縄上陸作戦の開始だ。
残りの敵戦力の調査と安全な居住区探し、拠点にできそうな場所を探すのだ。
装備は身軽。食料は現地調達。
クマタニからコンビニやスーパーの食料を調達しても良い許可をいただいた。
正直、殺されるかもしれない相手の命令に従うのは癪だ。けれどクマタニはカインに露ほども興味を持っていない。せいぜいタニザキさんを抑える人質という認識。
ならば、とことん利用されてやろう。
タニザキさんの人質として利用されるならば、逆にセブンを利用してやるのだ。
タニザキさんの心配はするなと言われた。
ならば心配あるまい。
軍のカインとしてではなくアイモリclubプロデューサーとしてセブンを攻略する。
セブンに取り入り、動画配信サイトで紹介して、セブン人気を取りこむ。
もともとドキュメンタリー番組を取る予定だったのだ。
セブンの情報を根掘り葉掘り聞きだして、セブンの秘密を動画配信する。
そんな邪な考え持っていた。
沖縄に上陸し、セブンと接触する。だから驚いた。
セブンを利用してやろうというどす黒い感情は一切合切霧散した。
なぜなら。
なぜなら、沖縄に上陸して先に待っていたセブンと出会った瞬間。
こう言われたからだ。
「初めまして、カイン君、小学生のパンツはお好き?」
☆☆
カインは今、沖縄に来てスマホのソーシャルゲームを楽しんでいる。
それも小学生おパンツを装着した聖遺物セブンと二人で共闘クエストをしていた。
なぜこうなったかというと、セブンの詳細から説明しなければならない。
聖遺物セブン。
彼女はもともと失われたロストテクノロジーの電脳アイドルのような存在だった。
それも医療系電脳アイドル。
歌って踊れるナースっ子。このコンセプトで開発された医療系アンドロイドだ。
昔の超文明の人たちはセブンに医学のすべてを注ぎこんだ。
どんな生物を見ても一瞬で分析し、その生物の治療薬もしくは即効性の毒をつくり出す。
人工知能、医学、介護、娯楽、対人コミュニケーションすべてを求められ、セブンはできた。
生きていないアンドロイドだけれど、セブンは古代文明を知る生き字引となった。
「タニザキからは根掘り葉掘り聞かれたよ。特にクラーケンの生態についてね」
沖縄の海辺に座りながら、セブンはスマホをポチポチする。
カインも同様に共闘クエストに励みながら会話した。
「そりゃ文献でお前はクラーケンの切り札になるって書かれてたからな……おおい、ここは魔法パーティーじゃなくて物理パーティーでダメージを削るんだぞ」
「おお、すまん。なにせ私がいた時代はもっぱら仮想現実空間にダイブして体を動かすのが主流だったからの。こっちの世界のソシャゲはちと厄介じゃ」
セブンの話によればクラーケンはもともと食用のイカとして開発されたそうだ。
セブンはクラーケンのお世話係をしていた。
水質の保全からエサやり、いけすの中のクラーケンが妙な病原体で死なないように殺菌など開発目的から離れた芸当をやっていたらしい。
古代文明において、あいつらクラーケンはただの食料。現人類が簡単に日本を占領されたのを考慮すると、古代文明の強さがうかがえる。
何せタニザキさんやクマタニが心の底から望んだ最強の聖遺物セブンですら、古代人にとってはただの医療用アンドロイドなのだ。戦闘用ですらない。
それでもセブンがクラーケンへの切り札になることには変わりない。彼女は飼育係だったのだから。
「で、なんで最強の対クラーケン医療用アンドロイド様が僕におパンツを見せる?」
セブンと出会い、友好を深めるために海辺でソシャゲの共闘クエをやっている間、セブンはずっと小学生おパンツ一丁の格好で過ごした。出会った時から上半身が裸なのである。このままではアンドロイドとはいえ児童ポルノに反すると心配したカインは、上着を彼女に与えて、せめて上半身だけでも来てくださいと懇願した。
結果。なんとか上半身の露出を阻止することに成功。するも下半身を守れるものがなく、渋々おパンツのままでソシャゲの共闘クエをやらせている。
セブンに邂逅したら聞きたいことは山ほどあったのだ。古代文明のこと、聖遺物のこと、クラーケンのこと、動画配信に出演すること、そのどれもが吹き飛び、疑問はただ一点に集中している。
つまりは……。
カインは再度問う。
「なぜ君は小学生のおパンツを見せるんだ?」
熊さんのデフォルメ絵がプリントアウトされたパンツを履いた少女は答える。
「タニザキからカインはロリコンで主に低学年の下着が好きだと聞いたから」
「タニザキさーん!?」
美しい沖縄の海に向かってカインは叫んだ。
日の沈みそうなきれいな夕日だった。
タニザキさんがジョークのわかる人だということは知っていたが、ここまでひどいうわさを流されたのは初めてだ。人権侵害だ。たまったもんじゃない。
「僕はロリコンじゃない。年上が好みだ」
「すまん、嘘だ」
「コケッ」
思わずよろけそうになる。ショックのあまりソシャゲのスキル発動タイミングを見逃してダメージ量が減ってしまった。
「なんで嘘をつくんだよ?」
「すまんな。古代文明ではロリコンであることが一種のステータスになっていたのだ。ロリコン=かっこいい。と世間で持てはやされていた。……というのも嘘で私をつくった人が幼児性愛者だっただけだ」
「良かったなセブンの開発者。今なら児童ポルノで一発アウトだ」
セブンが金髪ロリで幼女のくせしてなかなかの発育に恵まれているのは、どうやら開発者の趣味だったらしい。
そりゃ、カインもオミナのようなロリ巨乳には心動かされることもあるが、実際は可愛いだけの年下。どうせなら年上の方が燃える。大人っぽいハマダさんとか。
「って、なんという妄想をしているんだ僕は。消え去れ邪念」
首を左右に妄想を振り払う。ハマダさんの裸体を浮かべて波打つ心臓を抑える。
「若いのう、カイン。私の分析によって貴様の下半身が数センチほど肥大化したのが見受けられた。さては私に欲情したな」
「し、て、ね、え」
即刻否定する。なんて嫌な機能だ。セブンは思春期男子の敵である。
と、このようなアホアホトークをしながらソシャゲを楽しんだ。
セブンのセクハラに耐えながら、からかわれるだけの被害者に成り下がったカインであるが、タニザキさんの言うように、通常モードのセブンは気さくで面白い幼女であり、性根が良いことを実感した。
ソシャゲの協力プレイに夢中になっているといつの間にか日が沈み、夜のとばりが降りる。
ソシャゲをやめ、付近にある海辺に流れ着いた大木を割り、薪にして火をたいた。
カインは散策して小型のクラーケンを見つけては生け捕りにし、刃物で切り裂いて刺身にした。食ってみると、なるほど、古代文明の食料を名乗っても恥じないくらいにはクラーケンはうまかった。イカと同じ味がした。
海辺に帰りたき火でクラーケンを火あぶりするとうまみが凝縮されてちょっとしたご馳走になった。
たき火を消して持ってきたテントを張り、今日の調査は終了。
なんかセブンと交流を深めるためにずっとゲームをしてクラーケンを食っただけの調査に終わったが、もともと人質として沖縄に上陸したのだから、これくらいで問題ないと判断した。
「人間とは今も昔も難儀な生き物じゃな。食わないといけない。寝ないといけない。おまけに私の発育の良い体型を見て発情しなくてはならぬ」
「それは違う。睡眠欲、食欲、性欲。人間の三大欲求は満たされなければならないけれど、その対象がお前である必要はない」
途中、セブンにからかわれもしたが、すべてが順調に事が進んだ。
聖遺物セブンは太陽光を浴びて充電するので食事をする必要がない。
日中はカメのようにひなたぼっこをしてパワーを貯めるそうだ。
日の当たらない深い海底に沈められていたセブンは、起動したとき、果たして何を思ったのか。
ロリコンの開発者に作られ、本来の医療系アンドロイドとは無関係な仕事を押し付けられ、挙句、海の底に沈む。目が覚めたら覚めたで日本人の希望と崇められクラーケン討伐を強制される。その結果がカインと小学生おパンツでソシャゲの共闘だ。
人間をバカにしているんだろうか。それとも憐れんでいるのだろうか。
「なあ、人工知能」
「なんじゃ?」
テントの中で横になりながら、外で待機しているセブンに聞いてみることにした。
「お前はなぜ海の底に沈められても人間の味方をするんだ?」
「ロボット三原則に則って、という返答には不服に思うじゃろうな。私は人間を生かすことも殺すこともできる医療用アンドロイドなのでな」
「あれだけの強さがあればお前はクマタニから逃れることができる。強制モードだってクマタニを殺してしまえばいいだけの話だろう? なぜお前は現人類の言うことを聞くんだい?」
「それはのう。好きだからじゃ」
「何が? 人間が?」
「不毛な人間が、じゃ」
からかい上手なセブンはちょっとシリアスな声で続ける。
「たった八十年ぽっちの寿命のくせして生き生きと輝くところが素晴らしい。不毛な努力を全力でこなし続ける人間は、私らロボットからしたら孫みたいなものじゃ」
「はあ……意味がわからない。つまり母性本能を刺激される赤ちゃん、家族みたいなものか?」
「例えで言うほうがわかりやすいかの。例えばゲーム。人類は娯楽というものを開発し、クエストをクリアしても何も得をしないのにゲームクリアに全力を注いでおる」
「だから今日、スマホのソシャゲで共闘をしたのか?」
「そうじゃよ。私は無意味なことに全力をかける人間が大好物じゃ。カインにはこの一か月間、ソシャゲのクエストマップ全クリアを目指してもらう」
「そこに意味は?」
「意味はない。私の趣味じゃ」
「高尚な趣味なこった」
セブンにしてみればクラーケンを殲滅し、日本を奪還することさえ不毛な戦いを延々と続ける人類に映ってしまう。食料相手に本気になるのは、今の感覚に例えれると、現人類が核兵器を持ち出してゴキブリを殲滅しようとしているくらいの喜劇だ。
「どこかの文献に書いてあったのう。全力無意味、全力無謀、全力本気。これこそがロボット側から見た人間の姿じゃ。人間は孫のようにかわゆい」
「へいへい。じゃあ、僕は人工知能様にゲームの全クリアを提供しますよ」
「おうおう恩に着る。代わりに私の体で欲情しても良いぞ」
「いらん!」
こうして沖縄に上陸してからの一日目が去っていった。




