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第11話 ヒアリング

「ハマダちゃんと付き合っているんですか?」


「いや、違うよ」


 オミナとのヒアリング。


 共同生活の部屋から個室に移り、二人っきりになった瞬間、聞かれた。


 ちょっとした動揺。手にした資料を落としそうになる。


 資料にはマネジメントについてまとめたメモがずらり。


 緊張が走る。背筋を伸ばす。


 カインは女性を意識するあまり、動機やめまい、狭心症に似た症状を催す。


 一度しっかり深呼吸してヒアリングを始めた。


「これからヒアリングを始めます。リラックスしてください」


 手汗がじわり。カインが一番緊張しているようだ。


「ハマダちゃんと付き合っているんですか?」


 もう一度聞かれたので、もう一度言う。


「僕とハマダさんは付き合っていません」


「本当ですか?」


「本当です」


 オミナとうまくコミュニケーションがとれない。


「じゃあ、なんで毎日会っているんですか?」


「必要だからです」


 女性苦手を克服するためにデート屋を利用しているとは言えない。


「なんで私たち、ほったらかしなんですか?」


「ハマダさんを通じて意思疎通しています」


「ほら、すぐにハマダちゃんを引き合いに出す。昨日だってカインとおいしい料理を食べてきたって聞きました。デートじゃないですか?」


「食べてきたのは事実だけれど、デートじゃないです」


「年若き男女が二人っきりで食事をするのをデートって言うんです」


 オミナの不満はよくわかった。でも仕方ないじゃないか。カインは渋る。


 十分ほどオミナの追及を受ける。カインの方が先にダウン。部屋から逃げ出す。


 ヒアリングこれにて終了。


 結果、オミナはのけ者扱いされているのが気に食わないようだ。


 昨日の夕食、誘ってほしかったらしい。


 問題は山積みだった。


 次だ、次。部屋の中にいるオミナを追い出してメリーを呼ぶ。


「先輩はハマダちゃんと付き合っているんですか?」


「お前もか」


 開始早々。メリーもオミナと同じようなことを言う。


「昨日、高級な料亭でハマダちゃんとお食事されたそうですね?」


「はい、しました。けどデートじゃないよ。違うよ」


「毎夜、毎夜、私たちにこそこそして出かけるのをデートって言うんですよ?」


 メリーが笑っている。怖い。背景があれば、ゴゴゴゴゴゴッと渦巻いてそう。


「えーと、メリーさん。ヒアリングを始めていいですか?」


「アイドルと密会を重ねるマネージャーさんって不潔だと思いませんか、先輩?」


 にっこり。すごく怖い。まるで人を殺せそうな視線だ。


 顔は笑っているのに、殺気立っている。


 昨日、メリーに黙って高級な料亭に行ったのがそんなにまずかったのだろうか。


 弁明する。


「ごめんなさい。今度、あそこの料亭アイモリclubの三人で行こうよ。おいしいよ」


「そういう問題ではございません」


 メリーが立つ。立ち上がった瞬間、椅子が横に倒れる。


「私は先輩と二人っきりで食事するのを所望します。なのに先輩ったらまったく姿を見せずにハマダちゃんを介してでしか連絡してこないではないですか。挙句の果てに昨日も仲良くデートですか? 不潔です。最低です。ヤ〇チンPです!」


 メリーがヒステリックになったため、ヒアリングを強制終了。


 どうやら、ハマダさんと毎日会っていたことが他のメンバーの負担になっていた。そのことだけはよーくわかった。これからカインが取るべき行動は、ただ一つ。


「えーん。助けてハマダえもん!」


 ハマダさんに助けを求めることだった。


 オミナ、メリーとの険悪状態を改善するため、ハマダさんに連絡する。


 ハマダさんは、一度話し合いましょう、と言い、二人で別室に移動する。


 作戦会議を開いた。


「僕、マネジメントに従ってコミュニケーションを取ろうと頑張ったんです。ヒアリングしてメンバーの仕事をしやすく、成果をあげやすい状態にもっていこうと。でも全然ダメでした。どうすればいいですか?」


「あの二人、実はちょっと喜んでいたんだよね。久しぶりにカインに会ったから」


「ツンデレですか? まったくそうは見えなかったけれど?」


「でしょうね。会うの久しぶりだから。二人とも、ちょっとした照れ隠しよ」


「絶対違う。あのヒアリングは、そんな可愛いもんじゃなかった」


 まるで刑事と犯罪者だ。テレビでよく見る、警察署の薄暗い部屋に入れられて刑事に「お前がやったんだろう。早く白状しろよ」とカツ丼片手に脅されるあのシーンが目に浮かんだ。


「どうしましょう。このままだとマネージャーどころじゃないよ」


「ちょっと落ち着いて。カインは十代で若いけど、あの二人はもっと若いから」


 ハマダさんと整理する。


 カインは現在、オミナとメリーを避けている。なぜなら女性が苦手だからだ。


 最近、ハマダさんとデートを重ねることによって少しずつ慣れてきた。


 けれど、オミナやメリーと二人っきりになると、動機やめまい、狭心症に似た症状を催す。共同生活の場で寝食を共にするとまったく寝られなくなる。


 そんな事情があるとはオミナもメリーも露ほども知らず、あの二人の中では意味もなく避けられていると感じるはずだ。


「あの二人、地味にショック受けてた。でも、今日話せて嬉しかったんじゃない?」


 ハマダさんはそう言うが、フォローになっていない。


 問題はまったく解決していない。


 ハマダさんと毎日デートしたのが逆効果になり、オミナ、メリーはハブられていると勘違いしているかもしれない。最近、個人営業が多くなったのも重なり、アイモリclubの絆が壊れつつある。


 マネージャーとして絆を取り戻す腕の見せ所なのに、まったく貢献できていない。


 なんて情けないんだ。


「僕のせいでアイモリclubが空中分解するなんて嫌だ。きっと意見の相違とかで音楽ユニットみたいに解散するんだ」


「いや、私はオミナやメリーと仲良いから大丈夫。カインの問題だから」


「そ、そですか」


「女子会三人でカインの悪口言うの楽しい」


「僕は楽しくないですよ!」


 なにそれ、その女子会怖い。ハマダさんはどうやら味方じゃないらしい。


 どうやってアイドルたちとの仲を修復すればいいんだ。


 ロダンの考える人みたいなポーズをとる。


「真摯さよ」ハマダさんが呟く。


「え?」


「マネージャーに求められているものは真摯さ。カインが正直に告白すればいい」


「でも、誤ってもダメだったし」


 現に、昨日、高級な料亭に行ったことは許してもらっていない。


「そっちじゃない。私とデート屋しているのを正直に告げればいいでしょう」


「そ、そっか」


 ハマダさんとこそこそデートしているから、オミナやメリーの癇に障る。


 ならば、いっそのこと女性苦手だと。彼女たちに正直に告白すればいい。


 ハマダさんには慣れた。でも、あの二人と一緒にいるのはまだまだ重荷になる。


 それ含めて全部告白すれば。


 すれば、


「僕、めっちゃ恥ずかしくないですか!?」


「頑張れアイドル屋。真摯さの出番だよ」


 カインに退路なし。


 この数か月間、頑張ってハマダさんとデートしてきたが女性慣れの効果は半々。


 半々ではダメなのだ。オミナとメリーは納得してくれない。


 もう言い逃れはできない。


「わ、わかりました。正直に告白します」


☆☆


『えーマジ童貞!?』

『童貞が許されるのは小学生までだよねー』

『キモーイ』

『キャハハハハハハ』


 正直に告白した結果、オミナからキモーイガールズのAAが送られてきた。


 オミナが腹を抱えて笑いこける。


「プークスクス」( *´艸`)こんな感じだ。


「先輩、可愛い」


 メリーに同情された。同じ年代の女子に、可愛い、とか言われ屈辱的だ。


「二人とも落ち着いて。カインは真剣なんだよ」


 ハマダさんがなだめる。彼女が家庭教師とデート屋をしていることは告白済み。


 カインのみが恥辱にまみれた処刑台に立たされている気分だ。


 アイドルたちへのコンプレックス告白は十分ほどで終了。


 したり顔でメリーが提案する。


「ハマダちゃん一人では負担が大きいです。毎日でしたから。今後はローテーションで私、オミナ、ハマダ、とデートして女性苦手を克服してもらいます」


「いや、いいんだ、無理しなくて。誤解が解けただけで良かった。僕は今まで通り、ハマダさんを通して接触するから」


「ダメです。私たちもデートするんです!」


「ええっ?」


 メリーさんこんなに頑固でした? カインはそのまま押し切られる。


「ちょうど良い機会です。先輩の宿泊費は今まで通りアイモリclubの経費から落とすとして。私たちのデート代も経費で落としましょう」


「いやいや、そこまでしてもらわなくていいよ」


「絶対します。アイモリclubは先輩ありきのアイドルなんですから。中心人物が女性苦手で活動できません、なんてことになったら本末転倒です」


「そりゃそうだけど……」


 メリーの目は真剣だ。デートのローテーションは絶対に譲れないらしい。


 オミナがぼそっと小声で言う。


「童貞乙」


「うるさい」


 オミナはいつも無口なくせに攻勢に転ずると元気になる。


 普段から毒舌キャラでいけばいいんではなかろうか。


「小学生でも女の子と付き合っているご時世なのに。女性苦手とか。カイン可愛い」


「お前絶対許さんマジ殺す」


「きゃーこわーい(棒読み)」


 オミナさん。イケイケである。


 とりあえず一度、冷静になる。


 男女比、一対三で勝てるわけなく女性陣の言いなりになる。


「ではこれからはデート費として計上しましょう」


「メリーちゃんそこは童貞対策費でいいよ。どうせならソープランド費も出そう」


「オミナ、僕はもうすでに女性に結構慣れたから。余計なことは言わなくていい」


「じゃあ、今日、私と寝ます? あの部屋で過ごすのいつでもウェルカムですよ」


「ずるいオミナちゃん。先輩は私と寝ます」


「なんでそうなる!?」


「まーまー二人とも。カインが顔を真っ赤にして困ってるよ」


「私カイン取った!」


 オミナが左腕に抱き付き、中学生とは思えない巨乳を押し付けてきた。


 女性が苦手なのを良いことにからかってくる。


「ずるい。私も!」


 負けじとメリーが空いた右腕に抱き付く。彼女は彼女で何かと戦っているようだ。


 左からはロリ巨乳。右からはお嬢様。


 左右から柔らかな感触と女の子の香りが波状攻撃となって襲ってくる。


 カインの顔は沸点に達し、湯気が勢いよく出る。


 なんか恥ずかしすぎて泣いた。両目から涙が零れ落ちる。


「もう、やめなさい二人とも。カイン泣いてるじゃない」


「あ、ごめんなさい。やりすぎました。十七で童貞でもまだまだ大丈夫だから」


 オミナ、それ全然フォローになってない。


「先輩、任せてください。私たちが立派なヤ〇チンPに育てますね」


 メリーさん、言動そのものが全部おかしいよ。顔が肉食獣のそれになってる。


 テンションが大変なことに。事態を収集したのは我らが頼れるハマダさんだった。


「カインもっと困ってるじゃない。セクハラ禁止。異性に慣れてないのに無理しないの。十代はまだ若いんだからゆっくりと大人になってね」


 ハマダさんは、カインの両腕からオミナとメリーを引きはがし、正座させる。


 ついでにカインも正座した。正座させられた。


 それからじっくり五分、説教を受ける。


 アイモリclubの共同生活は仕事であってイチャイチャ空間ではない。


 不純異性交遊は禁止とする。ただしプライベートは除く。


 え、それってプライベートではオミナやメリーにセクシャルハラスメントを受けても何も言えないってことですか? とカインが質問すると、ハマダは、男なんだからしゃきっとしなさい、と返す。どうやらアイモリclubでのセクハラは禁止になったがプライベートでのセクハラはし放題らしい。


 オミナとメリーにセクハラの口実を与えてしまい、情けない思いに浸る。しかし、ポジティブに考えれば、この出来事をきっかけにカインとアイモリclubの関係は少しずつ修復されたように思われる。


 今後セクハラを受けても大丈夫なくらい女性に慣れよう、とカインは誓った。


「女性慣れしていない問題は後回しにします。落ち着いたところでヒアリングを再開します」


 カインはマネジメントについてメモってある資料を取り出す。


 本来の目的はヒアリングにある。


 ハマダさんの説教で場が落ち着き、羞恥心が薄れたところで三人同時にヒアリングした。


 ヒアリングのポイントは十点。


1.あなたの仕事について何を知らなければならないか?

2.この組織について、気になることはないか?

3.わたしに聞きたいことはないか?

4.われわれが、手をつけていない機会はどこにあるか?

5.われわれが、まだ気が付いていない脅威はどこにあるか?

6.うまくいっていることは何か?

7.うまくいっていないことは何か?

8.何を改善しなければならないか?

9.あなたの助けになるようなことをわたしはしているか?

10.あなたの邪魔になるような何かをわたしはしているか?


 アイモリclubのために真面目に取り組む。


 カインは終始、童貞可愛い、童貞可愛い、と小言を我慢しなければならなかった。


「まあ、気軽に愚痴を言い合える関係になったってことはいいんだけどね!」


 強がりじゃないよ。ちょっと悔しいけれど、これはこれで良かったのかなと思えるヒアリングだった。

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