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第10話 イノベーション

 マネジメントを取り入れてから一か月。


 カインは真摯に改革に取り組んだ。


 いくつか紹介したい。


 その一、仕事に働きがいを与える。


 マネージャーの仕事はアイドルに働きがいを持ってもらうこと。


 人は、自分の成長を自分で実感したときに楽しくなっていくもの。


 では自分の成長を実感できるにはどうすればいいのか?


 その答えは数字だ。データを必ず取って週に一回の会議で報告すればいい。


 アイモリclubではアイドルのモリというレベルを測る聖遺物が存在する。


 オミナ、メリー、ハマダの三人が歌ったときレベルは三十を記録した。


 マネジメントを始めてから、それを個々人で測定することにした。


 オミナは八レベル。メリーは十二レベル。ハマダは十レベル。


 アイモリclubの総合値は三十レベルだったが、個人は平均十レベルだった。


 個人に分けてアイドル力を測り、数字を競わせることで目に見えて比較できるようにした。


 その二、人の強みを発揮する。


 アイモリclubの仕事以外に個人の仕事を増やした。


 適材適所という言葉がある。


 当たり前のことだが、得意なことを活かして営業をかけた。


 アイモリclubとして売り出すだけでなく個々人としても売り出した。


 オミナはローカルアイドル、ご当地アイドルを目指した。


 大和丸の小規模なイベントやリポーターの仕事をした。


 一人で営業し、動画配信者と組んで特別ゲストとして動画作成を手伝った。


 ボランティアに積極的に参加した。


 素人っぽさがそれなりに人気を博した。


 メリーはプロの音楽家として活動を再開した。


 大和丸のみならず、他の大型船に出張して演奏会を開いた。


 ハマダは歓楽街でソロライブした。


 メンバーの中で唯一成人しているハマダは、大人のお客さんを捕まえるために歓楽街の劇場をまわった。


 夜のお店に行き、アイモリclubの知名度を広めた。


 グラビアなど雑誌出演するお仕事をやった。


 オミナは素人っぽさを活かした営業。


 メリーはプロの音楽家としての活動。


 ハマダは大人の魅力を活かしたグラビア。


 動画の広告収入とは別に個別で営業し、収入を得た。


 その三、間違いや失敗しない者は信用してはならない。


 人は優れているほど多くの間違いをおかす。優れているほど新しいことを行うからである。


 カインは失敗しようと提案した。社会に出て失敗することを恐れてはいけない。


 そりゃ、同じことを何度も失敗したら怒る。けれでも新しいことに挑戦した失敗は無駄じゃない。成功の架け橋だ。メンバーはどんどんチャレンジするようになった。


 その四、成果こそ、すべての活動の目的。


 マネジメントの父と呼ばれるドラッカーだが、一貫して伝えていることは、機会をとらえて成果を出せ、ということ。


 活動の目的がシンプルに表現されている。


 結果こそすべて。


 カインは部活動のようなアイドルをつくった。部活であれば結果よりも過程が重視される。野球部であれば甲子園に行けなくても甲子園を目指した努力が評価される。しかし、それではダメだ。真摯さに欠ける。カインは甲子園を目指すらなら、甲子園に連れていく責任がある。


 アイモリclubに成果を出させることがマネージャーの役割なのだ。


 その五、マネージャーの仕事をする。


 あらゆるマネージャーに共通の仕事は五つである。


①目標を設定する。

②組織する。

③動機づけとコミュニケーションを図る。

④評価測定する。

⑤人材を開発する。


 カインは目標を設定した。顧客が一番求めていることを目標に掲げた。それはクラーケンを倒すこと。セブンに役割を取られてしまったけれども、アイモリclub発足のきっかけになったお仕事は継続中なのだ。目標は……、


 ――大型のクラーケンを倒すこと。


 アイドルたちでいえば、アイドルのモリのレベルを百レベルにすることだ。


 オミナもメリーもハマダもアイドルのモリで百点。個人ならば三十三点を取ることを目標に頑張っている。


 動機づけとコミュニケーションを図る、では、ヒアリングをすることにした。


 もともとカインとアイドルたちの間には溝があった。女性苦手によるカインの一方的な溝なのだけれど、このままではいけない。そこでお互いに面談で話し合うことにする。ハマダに一か月だけ猶予を与えてくれと頼み、一か月後にヒアリングの機会を設けた。


 この一か月間の活動はこんな感じだ。


 最後にイノベーションを発表する。


 それは、普通のアイドルに戻ることだ。アイドル戦士をやめること。


 大和丸は現在、クラーケンとの戦いにより自粛ムードの中にいる。


 アイドルなんてとんでもない。もしアイドルをやるとしたら戦争のためのアイドル戦士しかいない。そこを利用した。


 表向きは戦争のためのアイドル戦士を名乗り、普通のアイドル活動に力を入れた。


 ライブをする。CDを出す。アルバムを出す。グラビア撮影。イベントや握手会。


 その他もろもろは自粛モードによって雰囲気的に禁止されていた。


 アイモリclubはそのムードをぶち壊した。


 アニメ撮影やドラマ出演、大型船を巡る全国ツアーなどを企画している。


 クラーケンとの戦争の真っ最中に、誰もやらないアイドル活動をする、それがアイモリclubのイノベーションだ。


 セブンがいるのにわざわざアイドルのモリに固執する必要はない。動画配信の広告収入に頼る必要はない。もっと幅広く活動してアイモリclubを地上にいたような普通のアイドルにするのだ。


 以上が一か月の活動報告だ。


 もちろんカイン自身、女性苦手を克服するために毎日のようにハマダさんとデートした。ハマダさんが夜の劇場ソロイベントやグラビア撮影するときなど同伴した。


 相乗効果かもしれないが。一か月間、マネジメントしたことによりアイモリclubの再生回数が増えた。


☆☆


 マーケティングリサーチ。市場調査。


 カインはアイモリclubの顧客が何を求めているのか調べることにした。


 調査方法は直接会いに行って質問する方法。


 けっして広いとは言えない人脈を頼った結果、強化人間の同期を対象とした。


 硬派で真面目だったA氏に会いに行く。


 強化人間のA氏に、アイモリclubに求めていることは何ですか? と質問。


 A氏の回答は、


「おっぱいです」


 とのこと。


 物凄い答えが返ってくる。


 さすがのカインも焦った。真面目だったA氏の面影はない。


「カインどの。アイドルとは、おっぱいです。そこに貧富の差はなし。巨乳も貧乳も女の子の胸は皆一様に神々しい。我ら男子は全人類の女の子におっぱいを求めているのです」


 ノアイがいたらドン引きするぞ。そう軽口をたたいて次に移る。


 マイルドヤンキー系のB氏に質問する。


 B氏はオミナと同じアイドルアニメが大好き。二次元も三次元もいける口だった。


 アイモリclubに求めていることは何ですか? と質問。


 B氏の回答は、


「処女性です」


 とのこと。


 カインはこの時点で激しい後悔の念に襲われる。聞く相手を間違えただろうか。


 強化人間の同期はみんな真面目で心優しい人ばかりだけれど、アイドルの話になると性格が一変した。


 ちょいワル系のB氏は言葉を続ける。


「二次元でも三次元でも言えるが、処女性こそ一番大事だな。処女じゃなくていい。処女性だ。例えば、ナンバーワンクラブ嬢。彼女たちは非処女の場合が多い。けれども百人以上の客と一切性交渉せずに客から求められ続ける。その身持ちの堅さに魅力を感じる。俺はたくさんの女と付き合ってきたが、クラブ嬢の話が一番面白かった」


 カインはアイモリclubの市場調査をしていたのだが、いつの間に性癖を黙って聞くだけの存在と化していた。A氏やB氏の性癖なんて知らない。


 大和丸の住人がアイモリclubに何を求めているのかを聞きたいのだ。


 カインは次に移る。


 リーダーシップのあるC氏に質問する。


 アイモリclubに求めていることは何ですか? と質問。


 C氏の回答は、


「オナニーのおかずに使えるかどうかです」


 とのこと。


 カインは軽いめまいを覚えた。


 アイドル。オナニー。アイドル。オナニー。うっ……頭が。


 たしかにそうなのだ。アイドルを好きになり、恋い焦がれ、彼女をネタに妄想するのは男として至極真っ当なこと。たしかにそうなのだが……なんか違う。


 文化祭ノリのアイドルをエロ路線で売ることは絶対に避けたい。


 着エロやAV出演なんてもってのほか。


 動画配信サイトで見たドキュメンタリー番組のアイドルみたいな末路だけは辿ってほしくない。


 リーダーシップのあるC氏は言葉を続ける。


「ハマダちゃんのグラビアは最高でした。粗暴なノアイとは次元が違いますね。クラスメート補正でノアイをおかずにしようとしたんだけど、ちょっと無理だった。俺は大人のボインちゃんが好きなんだ。そう再認識したね。ドヤッ!」


「ぶっちゃけすぎだろ!?」


 性癖を披露されただけでカインの市場調査は終了する。


 硬派で真面目だったA氏。ちょいワル系のB氏。リーダーシップのあるC氏。


 カインの質問に答え終わった三人は輪になり、アイモリclubの親衛隊を結成する。


「おっぱい、おっぱい!」


「処女性、処女性!」


「おかず、おかず!」


 お互いに肩を組み合い、ぐるぐる回りながら奇声を発する。


「オミナちゃん推し。おっぱいこそがすべて! おっぱい、おっぱい!」


「メリーちゃん推し。処女性こそ至高! セックス、セックス!」


「ハマダちゃん推し。グラビア爆エロ! お姉さん、お姉さん!」


 おっぱい、セックス、お姉さん、と三人の奇声が響き渡る。


 ダメだこいつら、早く何とかしないと。


 A氏、B氏、C氏らアイモリclub親衛隊の宴は続く。


 ノアイ以外の女の子と接点が乏しい彼らはみんな、女に飢えている。


 アイドルに彼女的ポジションを必要としている。


 十代の男の子はみんな、セックスのことで頭がいっぱい。


 その多大なる煩悩が現実に溢れだして痴漢や強姦などの犯罪をしないために日夜、賢者タイムに明け暮れる。


 カイン自身、同情できる。同情はできるのだけれど、アイドルたちをやるつもりは毛頭ない。


 アイドルたちは仲間であり、何か窮地に陥った時にすぐに手助けするべく存在だ。


 カインはアイモリclub親衛隊を危険物と認め、わざわざ藪をつついてヘビに噛まれないように、慎重に場を離れようとした。この集団の宴を止めることは許されない。


 藪をつついた瞬間、オミナ、メリー、ハマダの個人情報を根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。


「今日はありがとう。じゃ、僕はこの辺で帰ります」


「ちょっと、待った!」


 カインを呼び止めたのはハマダ押しのC氏であった。


「最近、毎日のようにハマダちゃんと遊んでるって噂なんだけど、どうなの?」


「え、いや、あの、別に、僕の個人的な悩みに付き合ってもらってるだけだよ」


 無垢なファンに、女性苦手を克服するためにデート屋として毎日お喋りしている、とは口が裂けても言えない。


 カインは、え、いや、あの、別に、の僅かな間に必死になって言い訳を考えた。


 オミナ押しのA氏が茶々を入れる。


「個人的な悩み? オミナちゃんとおっぱい祭りかな? あっやしい~」


「僕たちは何の関係もございません。ただのマネージャーとアイドルの関係です」


 メリー押しのB氏が会話に参加する。


「最近の同人誌ではマネージャーがアイドル食いまくってるけれど?」


「それは創作のお話です。アイモリclubはクリーンな関係です」


 必死に弁明するも我を失ったアイモリclub親衛隊の追撃が終わることはない。


 あれこれ、あることないこと聞いてくる。


「おっぱい、おっぱい!」


「処女性、処女性!」


「おかず、おかず!」


 テンションMax。


 隙あらばカインからアイドルの個人情報を聞き出そうと必死だった。


 連絡先を渡すまでは絶対に帰さない。そんな雰囲気が怖い。


 アイモリclub親衛隊の宴はいつまでも続くかに思われた。


 彼らの宴が終わったのは唐突に、彼女の介入によってだった。


「うるさーい!」


 持ち前の身体能力に任せてA氏を殴り、B氏を蹴飛ばし、C氏を吹っ飛ばす。


 強化人間を簡単にあしらったのは同じく強化人間。ノアイだった。


「さっきからセクハラ発言うるさい。こっちまで聞こえてきたぞ」


 別の会場で訓練していたノアイが飛んできた。ナイスフォロー。


 カインは礼を言う。


「ありがとう。助かったよ」


「お前今日は休みだろ。何でここにいるの?」


「ああ、ちょっとした市場調査をしてた」


「へー、何の?」


 ここでカインは思いつく。アイモリclubの一番の顧客がここにいた。


 A氏、B氏、C氏にしたのと同じ質問をする。


「ノアイ。お前がアイモリclubに求めていることは何?」


「んーと、強さ?」


「強さとは?」


「ちょっと言葉にしづらいけど、強いことかな。大和丸を守ってほしい」


「なるほど」


 今までのアイモリclubは視聴者受けを考えていた。しかし、本質的には強化人間と――つまり軍部と――同じ役割なのかもしれない。


 軍部の役割はみんなを守ること。日本を奪い返すこと。顧客は安全を求めている。


 アイモリclubも同じようにみんなを守り、戦わなければならない。


 セブンに負けないように。


 顧客の要望に応えるには、強くなるしかない。


「ありがとう、ノアイ。ちょっとわかった気がする。顧客は安全を、そして日本奪還を求めている。アイモリclubはアイドルのモリのレベルをあげることによってそれに貢献できる」


 アイモリclubの目標は大型のクラーケンを倒すことだ。


 大和丸の住人をクラーケンから守り、日本を奪還するために戦う。


 そのためにアイドル力を鍛えなければならない。


「僕たちの当面の課題は実力を磨くことかな。頑張るよ」


 ノアイのおかげで目標を再確認できた。


 クラーケンを倒すこと、アイドル力をあげること、営業活動すること。


 それ全部つながっていた。


 改めてノアイにお礼する。


「良い収穫になったよ。ところで、彼ら、どうするの?」


「海に捨てる」


 セクハラ発言したA氏、B氏、C氏は海に放り投げられる。


 海に落ちた彼らが再び大和丸に追いつくまで半日を要した。

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