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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十二章 決戦!命をかけた五条大橋!!
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165話 陰陽師の剣術

【桜庭瑞希】


ーーー私は、目の前の光景に唖然としていた。

いや、それはきっと、私だけじゃないだろう。

隣で一緒に見ていた平助も。

実際に、その凄まじさを体感している一と総司も。

きっと私たちと同じ心情だっただろう。


おのが目の前で繰り広げられる、鮮やかな剣術。

新選組最強と名高い二人の剣士を、完璧に(・・・)翻弄してみせる ーーーハル(・・)の、姿に。


「うそ・・・・・・」


ひらり、ひらり、と。まるで舞うように。

2人の剣豪の切っ先をすり抜け、時には右手に持つ剣でうけつつ、力を抜いて退けるその姿は、まるで。


「すごい・・・・・・」


ーーーまるで、地上に降り立った天女のようで。


「綺麗・・・・・・」


思わず漏らした私の声が聞こえたのか、総司は私の方をにらみつけた。


「こ、の・・・・・・っ!やり、ずらいな・・・っ!!」

「・・・・・・っ」


強い打撃ですら受け流され、鋭い切っ先もひらりひらりとかわされ、一の方はわかりずらいながらも、二人の顔には焦りと苛立ちが浮かんでいた。


「クソッ・・・・・・当たらないっ・・・・・・」


既に試合を開始して30分程がたっているが、未だに2人はハルに剣を当てるどころか、その剣と剣をまともに噛み合せることすらできずにいた。


ーーー5日前、「金毛九尾」の正体をきかされ、それが「人ではない」とわかった後。

5日たち、総司たちの傷もだいぶ癒えて剣を持てるようになったため、ハルによる剣術指導が始まった。


ちなみに、ハルの正体を知っている総司や一はともかくとして、平助には金毛九尾が人ではないことは伝えていない。

そのことが申し訳なくて、私たちの正体をばらそうとも考えたが、総司や一の反対と、真面目な平助に秘密という重荷を背負わせるのも申し訳なく、結局金毛九尾の正体とともに秘匿することに決めた。


そして、今朝のこと。


私たち4人を道場に呼び出したハルは穏やかな微笑の元、総司、一の両名と模擬戦を行うと告げた。


当然、2人対1人という、ある主、ハンデとも取れるハルの提案に、一はともかくとして、総司は当然のごとくあの怖い笑顔をハルに向けた。


「僕らを同時に相手にしようとか、舐めてくれるよね」


ーーーそう言ってから、今の時間まで。

1度も剣を当てられないことへの苛立ちと焦りからなのか、申し訳程度にはしていた手加減をやめた本気モードの2人を見ながら、平助が苦笑をうかべた。


「なんといいますか・・・・・・ここまで2人が躍起になってるの、練習じゃあ初めて見ました。・・・・・・2人を単身でここまで必死にさせる人なんて、早々いないですからね」

「と、いうか・・・・・・いないでしょ。でもまさか、ハルがここまで強いとは思ってなかったよ」


私じゃあ、絶対に無理だもん。

そもそも2人を相手にして、30分ももたないよ。5分・・・・・・いや、1分ももたない。

総司だけでも大変だっていうのに。


「・・・・・・お2人とも。ただ、力で押すだけでは僕には勝てるどころか、当てることすらできませんよ」

「っ・・・・・・だったら・・・・・・どうしろとっ・・・・・・!!」


2人をさらに煽るように、ハルが挑戦的な笑を浮かべる。

それに苛立ったのか、総司がいつになく大きく剣を振りかぶった。


「っ、おい、沖田!!」


一の珍しく焦った声が響き、そしてーーー。



********************



「・・・・・・君が何を言いたいかは分かってるよ」


不貞腐れたような、まるで叱られた子供のように、総司が呟く。

それを呆れたような視線で見つめる一の姿は、実にレアな構図だった。


「完全に頭に血が上ってたよね・・・・・・い、いや、なんでもない」


睨む総司、怖い。お願いだから殺気まで向けないでくれ。


「今回の試合で、お2人も、分かったのではありませんか?剣術は、力だけがすべてではない、と」

「・・・・・・ああ、そうだな」


苦笑を浮かべたハルの言葉に、一が心得たというように頷く。


「ふん・・・・・・君が一体どこで、さっきみたいな剣術を身につけてきたかは聞かないでおいてあげるよ」


相変わらずムスッとした表情で言う総司の言葉に、ハルが一瞬悲しげな表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑を浮かべて肩を竦めた。


「・・・・・・それは秘密です。とにかく、今日からは、僕が金毛九尾に勝つための剣術をお教えいたします。この剣術はどんな流派にも組み込むことができますから、その点はご心配なく」


そう言って微笑むハルの表情はさっきの悲しげな顔が嘘のように穏やかなものだったけれど。


ーーーどうして、「陰陽師」であるハルが、剣術をーーーまるで、大勢を相手にするような剣術、知っていたのだろう?


きっと、私がそれを尋ねても、ハルは笑ってごまかすだろう。

そう思った瞬間、ズキリと走った胸の痛みに困惑しながら、私は早速稽古を始めようと急かす総司たちのあとを追った。


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