別れの書簡と騎士の決意
レーガはデスクに座ると、静かにティニーからの手紙をしまい込んだ。
「くっ……」
折れた足がまだ痛む。ドラゴンと対峙した時に受けた傷は数多く、動くたびに痛みが走った。
手紙は、婚約解消を告げられたティニーが、いまだ前向きな内容を送ってきたものだ。
深く息を吐いた。
「……彼女は変わらないな。オレは、心まで折れているというのに」
隣にはフィオナという遠縁の令嬢が座っていた。彼女は、ドラゴン討伐で負傷したレーガの看病に来ている。
幼い頃から懐いてくれているとはいえ、年頃の令嬢をそばに置くのは気が引けた。帰るように告げても、“だって、私はいずれレーガの妻になるんだもん!”と言い張っている。
フィオナは本気でレーガの妻になろうと考えていた。
――正式な婚約解消を記す書類を机に出した。
ティニーときちんと付き合えたのはわずか2週間ほどのことだ。だが、彼女の明るさや逞しさ、輝く笑顔には確かに心を揺さぶられるものがあって、心惹かれてやまなかった。
戦いを終えた後は、当然、夫婦になるつもりでいた。
しかし、全身傷だらけの今、騎士団長としての任務を全うできないばかりか、長期離脱を余儀なくされる状況で兵士としても役に立てない。
そんなことで、ティニーとの婚約を続けるわけにはいかないと思えた。
(ティニーは辺境伯の娘だ。戦闘経験もある。彼女の前では、常に強くありたい)
見栄っ張りかもしれないが、そう考える自分がいた。
だからこそ、こうして婚約解消を正式に記す書類を用意した。
レーガはペンを取ると淡々と記した。封を閉じると、屋敷の者に託した。
「……これで、すべて終わる」
目を閉じると、自然とティニーの姿が浮かんだ。こうしてすぐに彼女が思い浮かぶのに、何を感傷的になっているんだ、と思うと自分が情けなくなった。
その一方で、手紙を託したことで少しだけ安堵している自分もいた。
(オレは……情けない男だな)
自責の念に駆られていると、フィオナが口を開いた。
「レーガ、ため息ついてどうするの? もともとは殿下から押し付けられた婚約でしょう? さっさと解消すべきだったわ。だって私がいるんだし」
彼女はレースのついたピンクのドレスがまだまだ似合う年齢だというのに、腕を組んでもっともらしい表情をつくっている。
「フィオナはそんなことを言う年齢になったのか?」
「もう!そういう年頃なの!」
プリプリと怒る様子に、まだ幼さが垣間見えた。
「頼もしいな。フィオナから見れば、オレはおじさんだろう?」
「ぜんっぜん!レーガはいつだって私の王子様なの!」
彼女の手がレーガの手を握った。
「オレを王子様だなんて……ありがとう」
レーガの口元に、わずかな笑みが浮かんだのだった。




