情熱的でヘンテコなラブレターで自爆した殿下
「なんでそんなにグシャグシャなんだ?」
「これだよこれ」
ギンスがもう1枚のグシャグシャの紙を見せる。手紙のようだ。
「なにそれ?」
のぞき込むと……愛の言葉がビッシリと綴られていた。
≪ナリオーネへ
君の笑顔を見るたび、胸が熱くなるのを抑えきれない。
今日の会議でも、心の中では君のことばかり考えていた。
書類を整理する手も、君を思うと妙に緊張してつい手が震えてしまったよ。
君はまるで、まだ朝露をまとったひまわりのようだ。
その輝く笑顔を思うと、僕の胸は小鳥が羽ばたくようにざわつく。
君の声は風に揺れる桜の枝のようで、聞くたびに僕の心はふわふわと舞い上がる。
君を思うと、僕の手はまるでミツバチのようにそわそわしてしまう。
この手紙を書きながらも、頭の中では君が庭いっぱいに咲き誇っていて、僕はその花に絡まって転げまわっている気分だ。≫
「これって……ラブレターだよね?」
「だな。殿下はナリオーネ様がホントに大好きだな。ハハハ……!」
ギンスはお腹を抱えて悶えている。
「笑うなんて失礼……でも、おもしろすぎるな。“花に絡まって転げまわっている気分”だって!アハハ……!」
「これを仕事の合間に書かれていたんじゃないか?それで、ふと我に返ってラブレターを書類と重ねたまま、ゴミ箱に捨ててしまわれたんだよ」
「となると、これは完全なる殿下の不注意だね」
「ああ、ほぼそうだろうな。このラブレター、殿下に書類と一緒に渡したら怒られるヤツだよな」
「あえてやってみる?」
ブハハ!と、2人は笑い転げた。ヘンリーニのラブレターがこんなにも面白いとは予想外!
「……でも、いいなあ」
「なにが?」
「ナリオーネ様は殿下に愛されていてさ。とんちんかんなラブレターはともかく」
「オレもティニーに書いてやろうか?」
「笑わすために?」
「いいや、真面目に書くさ」
「え……」
ギンスはそっと手を取ってティニーを立ち上がらせた。
「早くこの書類を殿下に渡そう」
「う、うん」
考えてみれば、今はギンスと2人きりだったんだ、と急に意識しはじめた。
書類を探すのに夢中で気にしてなかったが、書類を見つけた今、気に留めていなかった床のきしむ音や紙の匂いまでが……特別に感じられる。
部屋を出ると、夜の廊下も静かだった。夜の廊下は長くて薄暗く不気味だ。2人でいることで妙な緊張感が漂った。
「夜の廊下は……妙な雰囲気だな」
「ああ。殿下はどこだろうか?」
見張りの兵を見つけて尋ねると、夜間の会議中だという。
ヘンリーニは偉そうな態度をとるだけあって、きちんと王太子としての仕事を真面目にこなしているんだ、とティニーは改めて思った。
(きっと、書類のことを気にして落ち着かない気分なんだろうな。嫌なやつだけど、早く渡してあげよう)
会議をしているという部屋の前に来ると、取り次いでもらった。
ほどなくして、ヘンリーニ自身が扉から出てきた。
「あったか!ご苦労。どこにあった?」
ティニーは見つけた書類と例のラブレターを渡した。
「ゴミ箱の中に。この紙と一緒に丸めてありました!」
ヘンリーニがラブレターを見ると、真っ赤になった。
「……こ、これを見たのか!?」
ヘンリーニが口をパクパクさせている。
「見たのは私のみです。でも、ご心配なく。私はすぐに忘れる質ですから」
「ティニー、見たものは全部、即刻忘れよ。……そうだ、お前にはいろいろと今までつらい思いをさせたのだったな。後日、改めて償いになるものを贈ろう」
「気を使われなくても大丈夫です。私は、思いやりに欠ける言葉を言われたとしても、許す広い心を持っておりますので」
ここぞとばかりにヘンリーニに言うと、彼はとーっても渋い顔をした。さすがに、ギンスにつつかれる。
(やりすぎたか、ここらへんにしておこう)
「とにかく!もう、戻って休め」
「はい」
2人は笑いを噛み締めながら戻ったのだった。




