消えた書類を探して大捜索
ヘンリーニに直訴した結果、皮肉にもレーガとの婚約は厳しいと考えざるを得ないことがわかり、騎士団の皆にも状況が知れ渡った。
(これで、もうティニーとレーガとの縁は無くなったと皆、思っている。ティニーは辛いだろうが、オレにはチャンスだ)
ギンスは朝起きると、浮き立つ気持ちで顔を洗った。
水が冷たいが、今の自分の心を引き締めてくれるようで心地いい。
(さて、今日はどんなふうにティニーに話しかけようかな)
毎日、騎士団の訓練で会うのに彼女がもっと近い存在になるかもしれないと思うと、話すことも少し気を使うようになった。
「ギンス、今日は殿下の護衛についてくれ」
訓練場に行くと、副隊長からレーガがいなくなってから順番で務めている護衛の任務を言い渡された。
「分かりました」
内心、ティニーと話せず残念に思う。彼女の方に目を向けると、今日もメイたちに熱心に指導している。
(話すのは明日だな)
護衛の任務は夜まで続く。今日のティニーとの会話は諦めた。
「ティニー、君はナリオーネ様に呼ばれている」
副隊長が名を呼ぶと、ティニーは槍を止めてすぐに返事した。
「はい、すぐに向かいます!」
「頼むよ」
ギンスは急ぐフリをしながらも、ティニーと一緒に向かうために歩幅を狭めて歩いた。すると、予想通りティニーに後ろからポンと肩を叩かれた。
「早くしないと。交代の騎士が待ちかねているぞ」
「そこは、殿下がお困りになると言うべきだろう?」
「あはは」
呼ばれた部屋の前まで来ると、なんだか中が騒々しい。扉を開けようとしたら側近がバンと扉を開けたので、ギンスに直撃して鈍い音がした。
「いってえ……」
「来たか。2人に手伝ってもらいたいことがあるんだ!」
側近は、ギンスの額のたんこぶなど気にならない様子で、急いで中へと招き入れた。
中には、険しい顔をしたヘンリーニと、気まずげなナリオーネが待ちかねていた。
ヘンリーニは険しい顔のまま、腕を組みながら口を開いた。
「……大事な書類が、どこかに紛れ込んでいる。一緒に探してくれ」
「大事な書類がどうしてなくなる……むぐ」
ティニーが思ったまま口にすると、ギンスがティニーの口を押えた。
「かしこまりました。どのような書類でしょうか?」
「……お前はムダな話をせずにいいな。ティニーは相変わらず生意気だ」
「ヘンリーニ様、今はそんなことを言っている場合ではないでしょう。私も一緒に探しますから」
ナリオーネに言われてヘンリーニは眉を下げると、ナリオーネの頭を撫でた。
「おお、ナリオーネは優しい。さすが最愛の女性……!」
「うふふ、嬉しいですわ……コホン。早く探しましょうね」
ナリオーネがヘンリーニの胸を軽くつつくと、彼も我に返ったようだ。
「見つからないのは、次の評議会で使う資料だ。軍備の割り当てや各地の報告が入っている。今、誰かに見られるわけにはいかない」
「そんな重要な書類をだから、どうして……もごもご」
再びギンスに口を塞がれたティニーは頭を下げた。
「早急に見つけ出します!」
そこからはひたすら地味に書類の束の間を細かく探した。探す者はこれ以上増やしたくないというヘンリーニの希望もあって、最小限での捜索は時間がどんどん過ぎた。
「殿下の部屋には、重要な書類が山積していますからね」
側近も汗を拭いながら探している。ナリオーネは早々に疲れてしまいソファに座り込んでいた。ヘンリーニも探してはいたが、ナリオーネの元気がないのでそちらが気になるらしい。
「殿下、ここはナリオーネ様を連れて休まれてください。私たちで探しますので」
「そうしてくれるか?頼むぞ」
ヘンリーニとナリオーネについて側近も退出すると、ティニーとギンスのみが部屋に残った。
「ふう、早く見つけないと」
「こちらはもう見たか?」
「ああ」
そんな会話をしながら時間がまた過ぎていく。
気付くと夕暮れ近くになり、明かりを灯して書類を探した。
ティニーは書庫の奥で膝をつきながら、散乱した書類を一枚ずつ拾い上げていた。
「無いなあ」
小さく呟くと、後ろの方を探していたギンスが叫んだ。
「あったぞ!!」
1枚のグシャグシャになった書類を掲げるギンスがいた。




