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婚約破棄なんて簡単に言うな!ホントは嬉しいけど、復讐させてもらいます!─女騎士になったとある令嬢の物語─  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
✦ 第5章【番外編】ティニー×ギンス IF

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もどかしい想いと、仲間の励まし

天井まで届くほどの大きな窓と、そこから垂れ下がる深紅の天蓋カーテンはいつ見ても優雅で素晴らしい。


ここはヘンリーニとナリオーネのお気に入りの部屋の1つで、彼らは優雅にお茶タイムを楽しんでいた。


「なんだと?レーガの元に行きたいだと?」


ヘンリーニがティーカップから口を離すと、気難しげな顔をして言った。


「はい。私も少しばかりは戦力になります。それに、レーガ様は、私との婚約解消を考えるほど思いつめている様子。そばにいて力になりたいと思いました」

「ティニー……」


ティニーのファンであるナリオーネは眉を下げている。


「許可できない」


ヘンリーニはこともなげに言った。迷う気持ちは微塵もないらしい。


「なぜでしょう?」

「ドラゴン退治に適任だと選んだレーガが大怪我をしたのだ。その時点で、お前などあの土地にやっても意味がない」

「そうかもしれませんが、私には辺境での戦いの経験があります。ドラゴン相手ではないですが」


必死に言ったが、彼は聞く耳をもたなかった。


「勝てもしない者など派遣できるか。お前が怪我したら私が責められるしな。それに、今、お前には女性騎士の教育を頼んでいるではないか。看病ならほかの者でもできる。お前が行くことはない」

「私は仮にも婚約者の立場です」

「レーガから聞いているぞ。あれは婚約を解消するつもりじゃないか」


ヘンリーニの言葉がグサリと胸に突き刺さった。


「今、レーガの元で看病しているのは長年の付き合いのある女性らしいぞ。いろいろと諦めるには条件が揃いすぎてる」

「そんな……」


ショックを受けたティニーにナリオーネが優しく声をかけた。


「ティニー、私はあなたが不幸せになるところなんて見たくないわ。こうなったからには、あなたは新しいところへと目を向けるべきよ。私もティニーがそばにいた方が嬉しいし」


慰められているのか、ただ単に自分のそばにおいておきたいだけなのか、分かりかねたがナリオーネもレーガの元へやるつもりはないようだ。


「とにかく。お前は王都にいろ。勝手に向かうなどあり得ないからな?」


レーガの元に向かうどころか、王都から出ることさえ禁じられた。


とぼとぼと訓練場の方へと戻ると、騎士たちが一斉にティニーを見た。皆、ティニーがレーガの元に行きたいと、ヘンリーニに直訴しに行ったことを嗅ぎつけていた。


「どうだった?」


副隊長のウルバーノが、気まずそうにしながら笑みを浮かべて尋ねる。


「……ダメでした」


ティニーが短く答えると、場の空気が少し重くなった。


「婚約はどうなるんだ?」


ヘルマンがズバリと尋ねてきた。ほかの騎士も気になるようでジッと見ていた。


「正直、難しいかも。実は、婚約を解消したいと手紙で言われた」


ティニーの言葉に騎士たちは視線を伏せた。メイたちも口を引き結んで黙っていた。


「皆、気にしないでくれ。騎士生命が危ぶまれるほどの大怪我なら、未来を描けなくても仕方がない」


気にしないように皆に言ったが、沈んだ空気のままだった。


「ティニー……僕たちは、どんな決断でも応援するから」


副隊長のウルバーノが低く言うと、場の空気がほんのわずかに和らいだ。


「ありがとうございます。……さ、訓練の続きやりましょう」


ティニーは、胸の奥にレーガを想う未練を抱えながらも笑顔をつくると大きな声を出す。


訓練の掛け声が再び響き始めた。木剣がぶつかる乾いた音、甲冑が擦れる金属音、砂を蹴る靴音、いつもの日常だ。


ティニーが剣を振り下ろしてメイと打ち合っていると、ふいに背後から声が飛んできた。


「軸がブレてるぞ」


振り返ると、そこにギンスがいた。


木剣を肩に担ぎ、いつもと変わらぬ無邪気な笑みを浮かべている。


「ちょっと抜けろ。……お前が剣を振り回してても、今は集中できねえだろ」


ティニーはメイに“ごめん”と小さく告げると、木陰に並ぶ長椅子に座った。誰も自分を咎める者はいなかった。


風が頬を撫でていく。


「ほれ、これ飲め」


ギンスが水筒を放って寄こした。


ティニーは受け取ると一口含んだ。冷たい水が喉を通っていく。胸の苦しさまでは消えない。


「皆の知るところになっちゃったな」

「そうだな」


ギンスは空を仰いでから、低く続けた。


「でも、それでいいんじゃねえのか。オレだけじゃなくて、皆、お前がどんな道を選んでも支えるつもりだよ。無理に隠して背負い込む必要なんてない」


ティニーは水筒を握りしめたままうつむいた。


ギンスの言葉が胸に沁みて、ティニーは思わず泣きそうになった。

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