泣かせられた封書と窓際の騎士
「使者か……?」
ティニーは木剣を壁に立てかけると、冷静を装って使者から封書を受け取った。
「レーガ様からお急ぎと聞きまして直接お届けに参りました」
「そう、ありがとう」
間違いなく差出人にはレーガの名が書いてあった。
すぐにでも読みたい気持ちに駆られたが、訓練中に読むわけにいかない。そのままポケットに封書を突っ込んだ。
「ティニー様、団長からの手紙、読まなくていいのですか?」
メイが聞いてくる。表情からして、きっとラブレターだと思っているのだろう。
「後で、ゆっくり読むからさ」
「え、でも“急ぎ”だって使者が言ってましたよね?」
「メイは恋人からの手紙を皆の前で読む?そんなの恥ずかしいでしょ?」
「それはそうですね、すみません」
へへへ、とメイが笑う。
「じゃあ、あと30本追加でやろう!」
「ええ~鬼軍曹!」
「文句言わない!」
しばらく剣稽古は続いた。
――部屋に戻ると、封書をポケットから出した。
焦って封を切る手が震える。
紙の上に並ぶ文字は、落ち着いた筆跡で丁寧に書かれていた。
読み進めるうちに、ティニーの表情は失望へと変わっていく。
自分の気持ちを丁寧に説明したつもりだったが、彼はすでに1人で決断してしまった後なのだと思った。
(自分のために無駄に時間を使わないで欲しい、そして願わくは静かに過ごさせてほしい、だなんて)
自分を拒絶する言葉に打ちのめされた。
「どうして伝わらない、私の気持ちが……」
真剣に心情を書いたのにまったく相手に響かないのだと思うと、涙が勝手に溢れ出てきた。
乱暴に涙を拭う。それでも間に合わないぐらい涙がボロボロと流れた。
ベッドにうつ伏せになっていると、いつの間にか部屋が薄暗い。
ふと、外を見ると夕暮れの時間だった。食堂に行く時間だ。
(こんな顔じゃ食事になんて行けない)
稽古着のまま、だらしなく寝そべり続けた。
――コツン、と音が聞こえた。
気のせいかと思ったが、またコツン、コツンと音が聞こえる。
窓に何かがぶつかっているようだ。気になって身を起こすと、それはまだ続いている。
外を見るとギンスだった。手を振っている。
仕方なく顔を見られないようにして窓を開けた。
「食堂で見かけなかったから来てみた!どうして顔を隠すんだ?」
「な、なんでもないよ。ちょっと具合が悪いんだ」
「大丈夫か?着替えもしてないみたいじゃないか。医務室行くか?」
「大丈夫だって。寝てれば治る」
「お前、声もガラガラじゃないか。ちょっと待ってろ」
すると、ギンスは外壁をよじ登ってくるではないか。
「何してるんだよ!?」
ヒョイヒョイと壁の段差を利用して簡単に窓際にたどりついたギンスは、ティニーの顔をじっと見た。
「お前……泣いてた?」
「……」
黙っていると、彼の目線はあるところへと注がれた。
目線の先にはベッドの上にグシャグシャになった封書が転がっていた。
「ティニー。着替えて街の方に食事に行くぞ。待ってるから」
それだけ言うと、止める間もなくギンスは地上へとスルスルと降りていった。
「そんな気分じゃないって……」
ボソボソ言いながらも仕方なく急いで着替えた。
寮の外に出ると、ギンスが手を差し出した。
「ほら、行こうぜ」
「あんたと手をつなぐわけないでしょ」
差し出された手をパシッと払いのける。思い切り払ったわけではない。
「機嫌悪いな」
「……」
「まあいいさ。なんとなくわかるからさ」
ギンスは気にしない様子でティニーの前を歩いて行く。
街にやって来ると、落ち着いたこじんまりした店に連れて行かれた。
「この店はゆっくりできるぜ」
椅子に座ると、ギンスは慣れたように2人分の料理と飲み物を注文した。
すぐに飲み物が来る。ビールだった。
ジョッキをカチリと合わせると、互いにすぐに飲んだ。
「それで?どうするんだ?」
「なにが」
「団長から手紙が届いたんだろ?」
「そうだよ。あんたに関係ないでしょ」
「いいや、あるね」
「なんで?」
ギンスはジョッキをゆっくり置くと、静かにティニーを見つめた。その目は、いつもの軽さとは違って真剣だ。
「お前が好きだから」
「はあっ!?」
ティニーは思わず目を見開き、ただ驚きが全身を駆け抜けた。




