剣戟の訓練場に届いた、黒衣の手紙
ティニーはしばらくうずくまっていたが立ち上がると、手紙をそっと机の上に置いた。
(とりあえず、私も手紙を書かなくては。レーガ様は、きっと大怪我したせいで自暴自棄になっているんだ)
手をギュっと握る。こういう時こそ、自分が支えなくちゃいけないと思えた。
「そろそろ食事の時間だな……行くか」
食事は食堂でとることになっている。行くべき時間に行かねば食事は食べられない。
暗い気持ちで寮を出ると、ギンスがいた。
「ティニー、食事に行かないか?」
「ああ、食堂に向かうところだったよ」
「食堂じゃなくて、街の店に行かないか?」
「え……ダメだろう。いろいろと」
レーガから婚約を解消したいという手紙を受け取ってはいるが、まだ自分はそれを認めていない。
「団長が大怪我した時に食事に出かけるのはマズイか。しかもオレとだしな」
言いながら頭をわしゃわしゃとする。
「うん。悪いな。食堂に行くなら共に行こう」
「ああ。……今日の献立はなにかな?」
すぐにいつもの調子でギンスは話しだした。
(ギンスはいつも私を気にしてくれるな……)
ギンスは感情的なところがあって突っ走りやすいけれど、その分、情が厚くて憎めない。
「ん?オレの顔になんかついてる?」
「別に……そういうんじゃない。ちょっと改めてギンスがいいヤツだなって思っただけ」
「お、褒め言葉は好きだな。もっと言ってくれ」
ふざけてギンスがじゃれついてくる。
「お前たち、仲いいよな」
食堂に向かうヘルマンだった。
「だけど、団長が怪我したんだ。気にしろよ」
「そうだね……ごめん」
「オレがちょっかい出していただけだ。ティニーは悪くない」
「はいはい、お前も気を付けろ。わかってるだろ、ティニーは団長の婚約者だぜ」
ヘルマンは冷たく睨むと、食堂に入っていった。
「ごめんな。もっと気遣うべきだった」
「いいんだよ。私が悪かったんだって」
気の強いヘルマンと直情的なギンスの相性は良くない。だから、ティニーもたまにヘルマンから嫌味を言われることがあった。
「それでもさ、なにかあればオレに相談しろよ。一人で抱えるな」
「ほんと、あんたいいヤツだね」
「だろ?」
笑顔で2人は配膳の列に並んだ。
――部屋に戻ると、さっそくレーガへの手紙を書いた。
支えになりたいこと、療養から戻るのを待つこと、願わくはレーガの元に行って看病したいこと、今の自分の正直な気持ちを記した。
(これを読んで思い直してくれるとよいのだけど……)
レーガときちんと付き合った2週間だけでは、彼がどんな思考をして動く人かは正直、把握しきれていない。
仕事に真面目で責任感のある人だというのは分かっている。そして、人を思いやる気持ちもあるとも……。
(届け、私の気持ち)
封をして手紙を使者に託した。
――数週間後、ティニーは剣戟の音が響く訓練場にいた。
「メイ、もっとそこは踏み込んで!」
「はい!」
汗が額をつたう。がむしゃらに体を動かしたくて、ここ数日はずっと剣戟訓練を集中して指導していた。
それでもまだ、心の奥にはあの手紙のことが残っている。
(私の手紙、読んでくれたかな)
それが気になって落ち着かない気分だった。
「ティニー様、お手紙です」
突然の声に、剣を止めて振り向くと、黒衣に身を包んだ使者が立っていた。手には封書が握られている。
ドキリとした。心臓の鼓動が剣戟よりも激しく鳴っていた。




