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婚約破棄なんて簡単に言うな!ホントは嬉しいけど、復讐させてもらいます!─女騎士になったとある令嬢の物語─  作者: 大井町 鶴(おおいまち つる)
✦ 第5章【番外編】ティニー×ギンス IF

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誇り高き騎士レーガから届いた衝撃の手紙

ティニーはお茶席を後にした。


ヘンリーニとナリオーネの視線がまだ背中に刺さるような気がしたが、それどころではなかった。


頭を下げ部屋を出ると、言葉にできない不安を抱えながら静かに廊下を歩いた。


「レーガ様に手紙を……いや、会いに行かねば」


ドラゴンの生息する地は山あいの谷だ。彼が討伐に行ってから手紙のやりとりはできていない。


(やっぱり会いに行かねばならない)


そんな気持ちになって、誰もいない廊下で一度立ち止まった。


「でも、個人的な事情で駆けつけるのは許されない。討伐の追加メンバーに入れるだろうか」


ちょうど、目の前を隊長のモデストが通りかかった。文官とやりとりをしながら忙しそうだ。


「隊長!」

「ティニーか。どうした?」

「私を討伐の追加メンバーに加えてください!」

「お前が……?ダメだ」

「なぜです!?」


早く、と急かす文官に待つように手を出すと、モデストはティニーに静かな声で言った。


「ふだんはあなたを一般騎士として扱っているが、あなたは団長と婚約している。つまり、ゆくゆく団長夫人になるのだ。侯爵夫人でもある。そんな人を行かせるわけにいかない。あの地は今、安全ではない。団長でも大けがをしたのだぞ?」


実力不足、と言われたのだとティニーは悔しく思った。


「私に……今の私ができることはないのでしょうか?」

「……私ももう少ししたらドラゴン討伐の長として現地に向かう。あなたが心配していることを伝えておこう」

「よろしくお願いします……」


将来の伴侶となるからこそ、そばにいなくてはいけないのではないかと思うのに、留まるように言われて納得がいかない。


ヘンリーニに直訴しても却下されるだろう。そもそも、軍としての方針に逆らえば違反とみなされる。


「くそう……」

「口汚い言葉を使うなよ」


後ろから声がしたと思ったらギンスがいた。


「ギンス、私の独り言をいつも聞いているな」

「これでもお前を気遣っているからな。ずいぶんと思いつめたような顔をしていたぞ」

「顔に出てたか?」

「バッチリな」


2人は王宮の庭へ向かって歩いた。


風に揺れる花の香りが、わずかにティニーの心を落ち着かせた。花は好きだ。


それでも、まだ胸の奥には不安の影が残っている。


「……団長のこと、気にしてるよな。会いに行こうとしているんだろ?」

「ああ。だけど、私はダメだと言われた。実力不足だし未来の伴侶となるであろうからと」

「未来の伴侶ならば、余計にそばにいるべきなんじゃないのか?」

「だろ?やっぱりそう思うよな」


ギンスの言葉はティニーの心を突いた。


(ギンスは私の気持ちを分かってくれる)


「オレからもお前が団長の元に行けるように頼むよ」

「ギンスっていい奴だな」

「今さらだろ。知らなかったのか?」


笑顔でティニーのおでこをツンとギンスがつついた。


「そう不安がるな。大丈夫だ。オレがついてる」


自分に親身になってくれるのは、まだ自分に気持ちが残っているからかもしれないとふとティニーは思ったが、ただ頷いた。


「ギンス……ありがとな」

「おう」


――3日後、モデストは新しい兵を編成すると、現地へと向かった。


しばらく経って、ようやく少しは気持ちが落ち着いてきた頃、ティニーの元に一通の封書が届いた。


差出人はレーガだった。封を切る手がわずかに震える。


開封すると、文字は丁寧でありながらも、硬い文面にどこか冷たい印象を受ける。


読み進めると、その理由が分かってティニーの心は重く沈んでいった。


≪ティニーへ


春の訪れが感じられる今日この頃、君は元気で過ごしているだろうか。

こちらは遠征に追われ、慌ただしい日々が続いていた。


もうすでに知っているだろうが、自分の力不足により負傷した。

今回の遠征で、自分の未熟さを痛感している。


騎士としてそして婚約者として、君に誇れる自分ではないと考えている。


君を自分の人生に巻き込むことは望めない。


ここに、婚約を解消したい旨を伝える。≫


ティニーの手から封書が滑り落ちた。


言葉にならない衝撃が、全身を貫く。


「なんだよこれ……」


短い付き合いだったが、心の奥に芽生え始めた恋心を一気に奪われたようだった。


涙が頬を伝った。肩の力が抜け、膝がわずかに震えた。


「一方的だよ……どうして……」


自分も騎士だから気持ちは分かる。騎士として戦えない自分に不甲斐なさを感じるのは。


それでも、夫婦になると決めた相手ならばこそ、もっと助け合うべきなんじゃないかと思えた。


「なんなんだよ……」


目を閉じる。手紙を見たくなかった。

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