誇り高き騎士レーガから届いた衝撃の手紙
ティニーはお茶席を後にした。
ヘンリーニとナリオーネの視線がまだ背中に刺さるような気がしたが、それどころではなかった。
頭を下げ部屋を出ると、言葉にできない不安を抱えながら静かに廊下を歩いた。
「レーガ様に手紙を……いや、会いに行かねば」
ドラゴンの生息する地は山あいの谷だ。彼が討伐に行ってから手紙のやりとりはできていない。
(やっぱり会いに行かねばならない)
そんな気持ちになって、誰もいない廊下で一度立ち止まった。
「でも、個人的な事情で駆けつけるのは許されない。討伐の追加メンバーに入れるだろうか」
ちょうど、目の前を隊長のモデストが通りかかった。文官とやりとりをしながら忙しそうだ。
「隊長!」
「ティニーか。どうした?」
「私を討伐の追加メンバーに加えてください!」
「お前が……?ダメだ」
「なぜです!?」
早く、と急かす文官に待つように手を出すと、モデストはティニーに静かな声で言った。
「ふだんはあなたを一般騎士として扱っているが、あなたは団長と婚約している。つまり、ゆくゆく団長夫人になるのだ。侯爵夫人でもある。そんな人を行かせるわけにいかない。あの地は今、安全ではない。団長でも大けがをしたのだぞ?」
実力不足、と言われたのだとティニーは悔しく思った。
「私に……今の私ができることはないのでしょうか?」
「……私ももう少ししたらドラゴン討伐の長として現地に向かう。あなたが心配していることを伝えておこう」
「よろしくお願いします……」
将来の伴侶となるからこそ、そばにいなくてはいけないのではないかと思うのに、留まるように言われて納得がいかない。
ヘンリーニに直訴しても却下されるだろう。そもそも、軍としての方針に逆らえば違反とみなされる。
「くそう……」
「口汚い言葉を使うなよ」
後ろから声がしたと思ったらギンスがいた。
「ギンス、私の独り言をいつも聞いているな」
「これでもお前を気遣っているからな。ずいぶんと思いつめたような顔をしていたぞ」
「顔に出てたか?」
「バッチリな」
2人は王宮の庭へ向かって歩いた。
風に揺れる花の香りが、わずかにティニーの心を落ち着かせた。花は好きだ。
それでも、まだ胸の奥には不安の影が残っている。
「……団長のこと、気にしてるよな。会いに行こうとしているんだろ?」
「ああ。だけど、私はダメだと言われた。実力不足だし未来の伴侶となるであろうからと」
「未来の伴侶ならば、余計にそばにいるべきなんじゃないのか?」
「だろ?やっぱりそう思うよな」
ギンスの言葉はティニーの心を突いた。
(ギンスは私の気持ちを分かってくれる)
「オレからもお前が団長の元に行けるように頼むよ」
「ギンスっていい奴だな」
「今さらだろ。知らなかったのか?」
笑顔でティニーのおでこをツンとギンスがつついた。
「そう不安がるな。大丈夫だ。オレがついてる」
自分に親身になってくれるのは、まだ自分に気持ちが残っているからかもしれないとふとティニーは思ったが、ただ頷いた。
「ギンス……ありがとな」
「おう」
――3日後、モデストは新しい兵を編成すると、現地へと向かった。
しばらく経って、ようやく少しは気持ちが落ち着いてきた頃、ティニーの元に一通の封書が届いた。
差出人はレーガだった。封を切る手がわずかに震える。
開封すると、文字は丁寧でありながらも、硬い文面にどこか冷たい印象を受ける。
読み進めると、その理由が分かってティニーの心は重く沈んでいった。
≪ティニーへ
春の訪れが感じられる今日この頃、君は元気で過ごしているだろうか。
こちらは遠征に追われ、慌ただしい日々が続いていた。
もうすでに知っているだろうが、自分の力不足により負傷した。
今回の遠征で、自分の未熟さを痛感している。
騎士としてそして婚約者として、君に誇れる自分ではないと考えている。
君を自分の人生に巻き込むことは望めない。
ここに、婚約を解消したい旨を伝える。≫
ティニーの手から封書が滑り落ちた。
言葉にならない衝撃が、全身を貫く。
「なんだよこれ……」
短い付き合いだったが、心の奥に芽生え始めた恋心を一気に奪われたようだった。
涙が頬を伝った。肩の力が抜け、膝がわずかに震えた。
「一方的だよ……どうして……」
自分も騎士だから気持ちは分かる。騎士として戦えない自分に不甲斐なさを感じるのは。
それでも、夫婦になると決めた相手ならばこそ、もっと助け合うべきなんじゃないかと思えた。
「なんなんだよ……」
目を閉じる。手紙を見たくなかった。




