ウルバーノの事情と浮き立つ騎士たち
翌日、フィオナは冷えた飲み物と簡単な軽食をバスケットに詰め込むと、訓練場へと向かった。
朝から走り込みをしたらしい彼らはフィオナの姿を見ると、パッと顔を輝かせた。
「フィオナ嬢!待ってました!」
彼らはフィオナの元へとやってくると、冷たい飲み物欲しさに子どものように手を差し出してくる。彼らの額からは汗が流れていた。
「こら、お前ら。まだ僕は訓練が終わりなんて言ってないぞ」
彼らの後ろからウルバーノが声をかけた。
「いいじゃないですか。もう、ぶっ倒れるよりマシです。副隊長もフィオナ嬢が来て嬉しいくせに」
ウルバーノが皆の前でフィオナをデートに誘ったのを見ているから、騎士たちはウルバーノがフィオナ狙いだと考えている。
「副隊長以外にもフィオナ嬢が来て心から喜んでいるヤツはいるだろ?」
ギンスだった。さっそく昨日の話を受けて、ウルバーノ以外の男性にも間口を広げようとしてくれているらしい。
「あら、そんな方がいたら嬉しいわ」
フィオナもギンスの言葉に合わせて可愛らしく微笑むと、騎士たちはわかりやすい反応をした。
「え、フィオナ嬢は副隊長狙いじゃないんですか?なら、今度はオレとデートなんてどうですか?」
お調子者のヘルマンが早くも名乗り出た。
すると、ほかの騎士たちも我こそはと手を挙げ始める。
「オレもオレも!いつもフィオナちゃん、可愛いなって思っていたんですよ」
フィオナをじりじりと囲むように騎士たちが取り囲んだ。
「おい、お前ら離れろ。フィオナ嬢、ちょっと話がある。あちらへ」
ウルバーノが騎士たちをかき分けながらフィオナを強引に連れ出した。
「あーあ、副隊長ったら焦っちゃって」
ボヤく騎士たちの後ろから、ギンスも2人が訓練場を出ていく姿を見ていた。
「あの人、どこまで本気なんだよ」
「なに、やたらお前、気にするじゃん。もしかして、やっぱりギンスとフィオナ嬢はそういう仲なわけ?」
「違う。そうじゃなくて同志だって」
「同志?」
騎士たちはギンスがティニーに惚れていたことを知らない。事情を知らない彼らは頭を傾げたのだった。
――ウルバーノに連れられて訓練場の外までやって来た。
今日は誰も待ち構えている令嬢もおらず、木々の葉を揺らす風の音が耳に届いてくる。
渋い顔をしたウルバーノが振り返った。
「フィオナ嬢、昨日のことをきちんと説明させてくれないか?」
「皆さんの前から連れ出してまで言うことでしたか?」
「だって君は……」
彼は手を握ると口元を引き締めた。
「僕の説明もなしに、ほかへと目を向けようとしているから」
「そういうわけじゃ……」
心の内を読み取られるようで、目を思わず彼から背けた。
「あの僕に抱きついていた令嬢は……僕の亡くなった元婚約者の妹なんだ。だから冷たく突き放すことができなくて」
「亡き婚約者の妹さん?」
「ああ。彼女も僕に想いを寄せてくれていた。だけど、僕は亡き婚約者の妹をそのまま受け入れるのは違うと思っている」
「それはなぜです?」
「彼女をどうしても思い出すから……」
ウルバーノが遠い目をした。彼の髪の毛がサラサラと風に吹かれて靡いている。
(……ああそうか。この人は、元婚約者を忘れることができないのね)
まさか、元婚約者に囚われた人がここにもいると思わなかった。今だってほんとはレーガのことを想うと胸が痛い。
(レーガとは口約束で正式な婚約話だったわけではないけれど、似たような気持ちだわ……)
「ウルバーノ様。事情は分かりました。私たちはあまりにも早急に考えすぎましたね。……ある人が言っておりましたわ。自然に結ばれた縁を大事にしたいと。今なら、それがわかるような気がしますわ」
「それは……僕はもうダメだということ?」
「そうは言っていません。肩の力を抜きましょう、ということですわ。私もウルバーノ様もせっかちなようです」
笑顔をつくると、まるで年下に言い聞かせるようにフィオナが言った。
「……そうか、そうだったかもしれないな。じゃあ、これからのんびりとよろしく頼むよ」
手を差し出しながらいつもの余裕ある笑顔で言ったウルバーノだったが、訓練場に戻るなりフィオナに騎士たちが寄り付いたので、途端に彼の余裕は消えたのだった。




