失恋仲間の励ましに癒された日
ウルバーノではなく、ギンスが戸口に立っていた。
「どうしたの?突然ここまでくるなんて」
「さっき、オレも見ちまったから」
「見たって、あれを?」
「そうだよ。副隊長、令嬢に抱きつかれていたろ。さすがにショックだっただろうと思って」
ギンスも現場を見ていたと知り、思わずこぼした。
「私、ウルバーノ様が女性に人気だとは分かっていたはずなのに、甘く考えていたみたい。思った以上に衝撃を受けたわ」
「好きだったのか?」
「まだ、好きとかそんな間柄でもないけれど、“入り婿になる!”なんて言われたら少しは本気にしてしまうではないの」
フィオナは手のひらをぎゅっと握りしめたまま、少し息を吐いた。不安と戸惑いと少しの期待が入り混じって、まるで小さな嵐が心の中で吹き荒れているようだった。
「調子よく言うのは、あの人の悪いところだな。どこまで本気で言ってるのかも分からないし」
ギンスは肩をすくめた。
「本気で言ってくれたとは思うの。ただしそれは私を好きだからというより、自分の未来を考えた上での言葉ね」
「意外と冷静なんだな。てっきり浮かれているのかもと思ってたが」
「ちょっと!あなたって失礼ね」
「悪い」
ギンスの冗談めいた笑顔を見て、フィオナは胸の奥でぐるぐるしていたもやもやが、彼の言葉で少しずつほどけていくのを感じた。
(……少しだけ、気持ちが落ち着いたかも)
「ありがとう。気にかけてくれて」
「ああ。ほら、あんたとは“失恋仲間”だから。仲間は思いやらなきゃだろ」
ギンスがニカッと笑い、フィオナも思わず小さく笑みを返した。
(ギンスさんは……ティニーさんにまだ想いを残しているのかしら?)
頭の片隅でそんな疑問が浮かんだ。
「ねえ、ギンスさんは伴侶探しをしないの?婚約者、いないでしょう?」
「オレ?オレはまだいいよ。自然に任せたい」
「自然に……って。のんびりしているのね」
フィオナは肩をすくめると少し呆れたように言った。
「無理やり結ばれる縁じゃなくてさ、自然とできた縁を大事にしたいって考えているんだよ」
「……ああ、なるほどね」
「だからさ、フィオナももう少しゆっくりでいいじゃねえか?騎士団の中には真面目でいいヤツもいるしさ」
「なら、あなたがオススメの男性を紹介してよ」
「いいぜ。副隊長より階級は落ちるが、将来性のあるやつを紹介してやるぜ」
張り切って言うギンスが、なぜか頼もしく見えた。
大きな窓から差し込む柔らかな日差しが、まるでこの瞬間だけは安心できる世界にいるような気にさせる。
「ふふ。じゃあ、また明日、訓練場に行くからよろしくね」
「ああ。ゆっくり休めよ。じゃあな」
ギンスが部屋を去ると、ほんの少し寂しく感じた。
(どうして寂しくなんて感じるのかしら……それよりも、やっと王都に来たのに予想外のことばかり)
ここ最近のことを思い返す。
レーガの婚約者だと思って王都まで無理やりついて来れば、彼にはティニーという女性騎士がすでに婚約者となっていてショックを受けた。
あの時の全身が冷たくなるような感覚は今でも忘れない。
レーガをなんとか説き伏せればどうにかなるとも考えたが、彼は頑なに折れなかった。
とても傷ついたが、それならばと自分を叱咤してすぐにでもほかの男性を見つけなくちゃ――そんな気持ちでずっと過ごしてきた。
「私、焦っているのかしらね」
実家へはレーガが理由を説明する手紙を送ってくれているから、しばらく王都に留まっていても問題はない。
「私の王子様は一体誰なのかしら?」
自分がどうしてこんなに婚活に勤しまなければならないのかと思うと、悲しくなってきた。
悩んでいると自然と眠気が襲ってくる。
(眠る前に、この心のざわつきが少しでも落ち着いてくれたらいいのに)
ソファに沈み込むと、いつの間にか眠ってしまったフィオナだった。




