フィオナの元を訪ねてきた2人の男
フィオナは駆けながら目の前で見た光景にショックを受けていた。
(やっぱり私はあの人は無理……)
なんで、あの人に一瞬でもときめいてしまったのだろう、と恥ずかしい気持ちになっていた。令嬢をやさしく抱きしめる彼の姿が目に焼き付いている。
静かな通路をふらふらと歩いていくと、使用人の家族が泊まれる離れが見えてきた。
部屋に入ると、ソファに腰を下ろす。
大きな窓から温かい日の光が差し込んでいて、今さっき起きたことが夢みたいに感じられた。
お茶を入れると、一息口に運ぶ。
「落ち着かなきゃ……」
小さく自分に言い聞かせていると、扉の軋む音がわずかに聞こえた。
誰かが訪ねてきたようだ。
「フィオナ嬢、少しいいかな?」
声の主は、ウルバーノだった。
(どうしてここに)
自分の部屋に招くほどの仲ではない。それなのに、部屋を訪ねてきたから驚いた。しばし、扉を開けるべきか迷っていると、また声がする。
「フィオナ嬢?いるよね?」
仕方なく、扉を開けるとウルバーノが笑顔で立っていた。
(こんなときに顔を合わせたくなかったのに……)
少し不機嫌な顔になったのが自分でも分かった。
「どうしたのですか?いきなり訪ねてくるなんて。私たちは恋人同士でもありませんのに、困りますわ」
「ごめん。だけど、訓練が終わったら君と話したいと思っていたから」
「……とにかくお入りください。お茶をお淹れしますわ」
ウルバーノは軽く頭を下げると、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れた。フィオナが警戒しているからか彼は距離を保つようにしているみたいだ。
「どうして急いで戻ってしまったの?」
「どうしてって……ウルバーノ様は令嬢方に囲まれていたではないですか」
“それに、令嬢に抱きつかれていたでしょう”とは口に出さなかった。
「それが不快だった?」
(わざわざ聞くなんてどういうつもり?)
カップを持つ手を皿に戻すと、ツンとして応えた。
「私には関係のないことです」
「もし、嫉妬してくれているなら嬉しいと思ったんだけれど」
もう、この無神経さに我慢ならないとフィオナは席を立った。
「どうしてそういう考えになるのです!?それこそ不快ですわ。もうお帰りになって」
ウルバーノは驚いた顔をしたが、すぐに反省した顔になった。
「ごめん。いつもは最後まで騎士たちの世話を焼いている君が、今日は早々にいなくなったから。令嬢たちは迷惑になるから来ないように言っているんだけど、僕だけのファンってわけじゃないから強く言えなくて」
(僕だけのファンって……)
フィオナは、ウルバーノの言葉に胸の奥がざらついた。
「……私、見ました。ウルバーノ様は令嬢に抱きつかれていましたよね。それってファンのうちに入りますの?」
「あれは……!」
ハッとしたようにウルバーノは慌てた顔をした。
「特別な関係じゃない。本当に。ただ、事情があって……」
何と言えばいいのか迷っているようだった。
「私は強い方が理想ですけれども、あちこちで浮気するような方は求めていません。きちんと私の子どもに家を継いでもらわねばなりませんから」
「当然だよ。ただ、この話をするにはちょっと整理してからきちんと話したいと思って」
歯切れの悪いウルバーノは立ち上がった。
「また、改めて説明させて」
「分かりました……」
扉を閉じると、フィオナは大きく息を吐いた。
「驚いた。突然、来るなんて。それにしてもさすがに抱きつかれていることを言ったら慌てていたわね」
正直、部屋まで様子がおかしいと思って来てくれたこと自体は嬉しかった。特別な人だと思われているようで。
(でも……)
考えていると扉をノックする音がした。
(え、ウルバーノ様が戻って来た?)
ドキドキしながら扉を開けると、そこにいたのはギンスだった。




