フィオナのショック
変わらずフィオナは訓練場に顔を出していた。
レーガにチクチクと言われたけれども、強い男性を伴侶として選びたい気持ちは捨てられない。
(でも、ウルバーノ様とデートしてから彼をどうしても意識しちゃうわ)
ウルバーノは騎士隊員の指導真っ最中である。真面目な顔で剣の指導をする姿は……かっこいい。
「お茶でもどう?」
ティニーが穏やかな笑顔で立っていた。
「ありがとうございます」
茶の入ったカップをフィオナに渡すと、そのまま彼女の隣に腰を下ろした。
「副隊長とのデートどうだった?」
「レーガに聞いたでしょう?反対されているわ」
「私が聞いたのはあなたの気持ちだよ。副隊長のこと、どう感じているの?」
「あの方は……親切で紳士です。だけど、街を歩いただけで女性がわんさか寄ってきたのがちょっと……」
ふう、とフィオナはため息をついた。
「副隊長はモテる人だからなあ。自然と女性が寄って来るのは仕方ないかもね。でもさ、自分の気持ちが大事だと思うな、私は」
「まあ、レーガと上手くいっているからって余裕なのね」
ジロリとフィオナが見ると、ティニーが苦笑いをする。
「私だって、フィオナ嬢が現れた時、いろいろと考えたよ。そこはお互い様ということで。……とにかく私が言いたかったのは、自分の気持ちを大事にしてほしいなって言いたかっただけ」
立ち上がると“じゃ”と女性騎士たちの方へと歩いて行く。
「ティニーさんが女性に人気があるのが分かる気がするわ」
ティニーはヘンリーニと婚約中のナリオーネから寵愛を受けているという。ヘンリーニの前婚約者だったから“そんなバカな”と思っていたが、こうして気にかけられると納得するものはある。ティニーは親切だった。
訓練場の剣の稽古がひと段落すると、騎士団員たちは汗をぬぐいながら広場を後にする。
だが、その出口付近には、お目当ての騎士団員を待ち構えている色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちの姿があった。
「まあ、今日も騎士団の方々は人気ね……」
フィオナはつい顔をしかめる。でも、自分だって同じだ。素知らぬ顔をして通り過ぎようとすると、令嬢の1人から呼び止められた。
「どうして、あなたは訓練場に入っているのよ」
険しい表情をした令嬢たちが睨んでいた。
そのとき、ティニーが颯爽と現れた。
「おや令嬢たち、今日も美しいね。出迎えてくれてありがとう」
「ティニー様に褒めていただけるなんて嬉しいですわ!」
(ホントにティニーさんて女性に人気ね)
気付くと、ティニーが令嬢たちに見えないように手でそのまま通り過ぎるように、合図していた。
フィオナが早足でその場を離れると、レーガがやって来るのが見えた。
「フィオナ。また訓練場まで来ていたのだな。オレが相手を見つけてやると言っているのに」
「私は自分で選びたいのよ」
「変な男に引っ掛かったら困る」
「だから……」
言い合っていると、ティニーが“おーい”と叫びながら走ってきた。
「ティニー!」
文句を言っていたレーガは途端に笑顔になって、ティニーにデレデレである。
(レーガは本当にティニーさんに夢中なんだから)
「私、ちょっと忘れ物したわ。先に行っていて。もう令嬢たちも帰っただろうし」
「早く戻るのだぞ」
「わかってる」
レーガがティニーと連れ立って行くのを見守ると、フィオナは訓練場へと引き返した。令嬢たちが去った後なら、ウルバーノと話す時間はあるだろう。
この角を曲がれば訓練場だという時──
ウルバーノが令嬢に抱きつかれている姿が目に飛び込んできた。
思わずサッと木の影に隠れて様子を伺うと、令嬢は泣いているらしい。ウルバーノはそんな彼女の背中をぽんぽんとしていた。
(これは……どんな状況?あの令嬢はなんなの?)
見てはいけないものを見てしまったようで、早くここを去らなくてはと元の道に足を向ける。
(落ち着かなきゃ……)
心臓が早鐘のように打っていて、頭の中が真っ白だった。
「おい、フィオナ!?」
裏口から出た彼は、フィオナが走る姿を見て彼女に声をかけたが、フィオナは振り返ることもなく駆け去っていった。
「なんか、フィオナが変だったな」
ふと訓練場の前を見ると、ウルバーノに泣きながら抱きつく令嬢がいる。
「ああ、そういうことか……」
苦々しい思いを抱いたギンスだった。




