辺境育ちの令嬢、王子の裏切りを目撃
王宮で対面したヘンリーニは、やっぱりティニーの理想的な男性とは真逆であった。
良く言えば、スラリとした貴公子、悪く言えば貧弱な男、である。
ティニーは辺境で屈強な体格の男性ばかり見て育ってきた女性だ。ヘンリーニは全く好みではない。
そして、それはヘンリーニにも言えたことだった。
彼は、ティニーを見るや否や舌打ちをしてきた。
「ちっ、こんなゴツイ田舎女だとは……」
小声で言ったらしいヘンリーニの言葉は、ティニーの耳にはしっかりと届いた。
(お互いに気に入らないということだな)
ティニーは思ったが、“じゃあ、さようなら”というわけにいかず、実家でマナー教師に叩きこまれたとおり、微笑みを浮かべてしおらしく振る舞った。
なのにだ。
ヘンリーニは努力を認めるどころか、日を重ねるうちに “岩女”とか“ガサツ女”だとか、あからさまに文句を言い始めた。
(この野郎。大人しくしていれば、ふざけるなよ!)
顔では笑みを浮かべながら、内心毒づくのはもはや日常だった。
――そんなある日、ティニーはある現場を見てしまったのだ。
庭の東屋でヘンリーニとナリオーネがハグしてキスしているのを。
(あいつ、浮気していたのか……)
好きでもないが、日々、こちらは王命のために努力しているのに、自分だけ好き勝手やっているなんて許せん!とブチギレた。
深呼吸してひとまずその場を離れると、情報収集のために部屋へ戻った。
「殿下には付き合っている人がいらっしゃるのか?」
お嬢様言葉も忘れて、ティニーは侍女をさっそく問い詰めた。
「以前から殿下とナリオーネ様は想い合う仲でらっしゃいました。ですが、王はウェッブ公がお嫌いですから……」
「そうか。以前からアイツらは想い合っていたのか……」
ならばヘンリーニが自分に冷たく当たるのも少しは理解できる、とティニーは納得した。
(気に食わんが、アイツらのことは大目に見てやろう)
こうして、ティニーはヘンリーニの前で笑顔をつくるのも止めて、ワザとガサツに振る舞ってやった。彼らが仲を深められるように……。
すると、より不満を溜めたヘンリーニは、ナリオーネと共にティニーに難癖をつけ始めた。
「……お前は、ナリオーネを虐げているそうだな!この前は階段から突き落とそうとしたとか!」
婚約破棄でもされればお互いのためによいと思って振る舞ったのに、こう言われると、さすがにカチンときた。
(こっちはお前らが過ごしやすいように気を使ってやったんだぞ)
「いえ、私はナリオーネ様に近づいてもおりません。それに、階段から突き落とすぐらいなら得意技の必殺パンチを食らわしますよ」
ついつい本音が出た。
「必殺パンチだと?やはり危害を加えようとしたのではないか!」
彼らはバカみたいに大騒ぎした。
そして、パーティーで婚約破棄された。
結婚せずに済んだのは清々しい。腑に落ちないものはある。
でも、騎士になった今、意外と護衛業務を楽しんではいる。
ナリオーネはうるさいが、評判は徐々に上向きになってきていた。
というのは、まるで男装する俳優のような見た目に、男前な性格のティニーに惹かれる女性が王宮にもたくさんいた。
この前など、厨房勤めの女料理人から焼き立てクッキーの差し入れをもらった。
「正直、私は今のティニー様の方が生き生きして見えますよ!応援してますからね!」
ちょいと太めのおばちゃん料理人に言われて苦笑した。
「ははは。私も大きな声じゃ言えないが、今の方が性に合っているのだよ」
ほかにも、洗濯をしている下女から刺繍入りのハンカチをもらった。
聞けば、苦手な虫が出た時に、ティニーが追い払ってくれた時からファンだったそうだ。婚約者時代の話らしいが、ティニーにとってはあまりにも普通のことすぎて覚えてもいなかった。
(そろそろ、ナリオーネを本格的に骨抜きにしてやろうかな~)
能天気に考えていたティニーだった。




