妹分フィオナの婚活宣言!騎士団がざわつく予感
訓練場の午後は、夏の日差しが強くなってきてやたらと喉が渇く。
「はい、飲み物」
フィオナがギンスに水の入ったコップを渡す。
「あ……どうも」
舞踏会でギンスがワインをがぶ飲みしていた時にフィオナが水を差し出してから、彼女はギンスのそばにいることが多くなった。
(一体、これはどういうつもりなんだ?)
そばにフィオナがいるからといって好意を伝えるとか、そういった気配はない。ただ、ギンスのそばに彼女はいた。
ギンスが困惑しながら訓練場に目をやると、相変わらず砂埃と剣のぶつかる甲高い音で満ちている。
「あ、あなた右腕を擦りむいてるわ!」
フィオナは小走りで男性騎士に寄ると、彼を連れて引っ張ってくる。
「いや、このくらい放っておけば大丈夫だよ……」
「ダメよ!放っておいて悪化したらどうするの?戦う人は身体が資本でしょう?」
彼女は、彼の腕を消毒すると、包帯を器用に巻きつけていった。
「おお、手際がいいなあ!」
引きずられていく男性騎士が気になって、覗きにやってきたティニーは感心した。
「ほんとだな。オレも手当してもらおうかな」
調子のいいヘルマンが、にやにやしながら口を開いた。
「おいやめろよ。彼女は団長の妹的存在だぞ」
「妹的存在ね。最初は団長の婚約者だっていうからそんな気になかったけど、違うとわかってチャンスかなってさ」
見ると、まわりには同じような思いを抱いているらしい騎士たちがわらわらと集まっていた。
彼らは絶賛彼女募集中なので、この手の話題には目ざとい。
「お前ら、団長に殺されるぞ」
ギンスは汗を拭いながら、深く息をついた。
「ギンスさん、別に構わないわ。だって、うちの故郷はドラゴンが出るような土地よ?意欲がある人がアピールしてくれるなら嬉しいし」
「だとしても、もっと慎重に選んだ方がいいだろう。こいつら、恋人が欲しいだけだぜ?」
「おいギンス!オレたちに失礼だな!可愛い令嬢に傷の手当をされたいんだよ」
「彼女は看護師じゃないんだぞ」
「いいのよ。うちの領地は、こうして傷ついた兵士の手当をする文化があるのだし」
「いい子だなあ」
男性騎士たちは一気に盛り上がる。
女性騎士たちはそんな彼らを呆れて見ていた。女性騎士たちは彼らの情けないところまでよく知っているから、恋愛対象として見ていない。
(まあ、フィオナが前向きだからこれはこれでいいのかな。それにしても、やたらとギンスのそばにいるよな……)
フィオナがギンスに惹かれているのではないかとティニーは考えていた。
――訓練が終わると、ギンスがそばにきた。
「はああ、疲れた」
「お疲れ。疲れたのは訓練でか?それとも、フィオナ嬢のことでか?」
ティニーが声をひそめて聞く。
「後者だな。あの後、“さっき手当した黒髪の方って未婚?”なんて聞かれたぜ」
「そうなんだ……。私、あんたのことを狙っているのかと思っていたんだけど」
「オレ?違うだろう。彼女は、団長みたいな屈強な男が好みらしいぞ」
「へええ。じゃあ、ギンスはちょっと残念に思っているんじゃないか?」
「なんで?……お前、オレが狙われていたら嫉妬でもしてくれた?」
ギンスは冗談めかして言ったものの、ティニーの反応を待つように少しだけ間を置いた。
「そんな顔で見るなよ……したかもって言ったら、あんた喜ぶの?」
「言ったら、悪女だって言ってやる」
ギンスは肩をすくめて、わざとらしく頭を抱えた。
「うわ、やめろよ。冗談じゃなくなるだろ!」
ティニーは笑いながら、ギンスの腕を軽く叩いた。
「お前が悪女だなんて、似合わないよな」
「そうだよ。私は計算高くなんて動けないからな」
「よく知ってる」
笑いあっていると、ギンスがティニーの背中をポンと叩いた。
「……団長がお前を迎えに来たぞ」
こちらにやってくるレーガが見えた。遠目でも彼が気難しい顔をしているのがわかる。きっと今のやりとりを見て、嫉妬しているのだろう
そばに来た彼は、やっぱりしかめっ面をしていた
「ティニー、騎士をそろそろやめないか?君とギンスが一緒にいるところを見ると落ち着かない」
「少しフィオナ嬢のことを話していただけですよ。不快にさせたのならすみません。……私は騎士をやめませんよ。私にもやれることはしたいですからね」
笑顔で言うティニーをレーガはしばらく見つめていた。その瞳には、言葉にできない不安と、彼女を信じたい気持ちが入り混じっていた。
「……そうか。じゃあ、帰ろう」
彼の背中はどこか不満だけど、どこか安心しているようにも見えた。
(思った以上に不安にさせてしまったかな……)
彼の不器用な優しさが、胸の奥にじんわりと染みた。




