舞踏会デビューとギンスの強引エスコート
舞踏会が開かれる日がやってきた。
王宮の大広間には華やかな飾りと優雅な調度品が並び、舞踏会の熱気が少しずつ高まってきていた。
ティニーは控え室の鏡の前に立つと、久しぶりに着るドレスに袖を通して身だしなみを整えていた。
(ああ、やっぱりドレスって動きにくいよな。舞踏会も好きじゃないし……でも、あのフィオナもいるし、ここは頑張るしかない)
フィオナが舞踏会には並々ならぬ気合いを入れているらしいと、レーガから聞いていた。
『フィオナは、きちんと理解してくれた。前向きに伴侶を得ようと考えを改めることにしたらしい。オレも彼女が気に入る男がいれば積極的に協力するつもりだ』
ティニーの信頼を失いかけたレーガは、気を使って、フィオナのことをわざわざ知らせてくれた。
(まあ、知らせてくれる分には不安はないけれど)
以前は、レーガがフィオナを忘れられなくて連れ帰ったと思っていたから、ずいぶんと悩まされた。今はレーガも気を使って、細かく説明してくれるようになったから、その点では良かったと思っている。
控え室の扉がノックされ、メイドがそっと入ってきた。
「舞踏会の開宴の時刻でございます。そろそろご移動なさってはいかがでしょうか?」
ティニーは深く息を吸い込むと鏡の前から離れた。
レーガは社交界デビューのフィオナを一人にするわけにいかず、彼女に付き添うことになっている。それは仕方がない。
――会場前に来ると、なぜか正装したギンスがいた。
「お前、一人で入場するつもり?」
「仕方ないじゃないか。団長はフィオナ嬢の付き添いをするのだし。それより、ギンスも舞踏会に出るつもり?相手なんていた?」
「オレの相手はお前だよ」
ギンスは腕を軽く曲げると、差し出した。
「なにやってるんだ?」
「エスコートだろ、どう見ても」
「……だからなんでギンスが」
「いいから腕に手を置けよ。なんのために正装したと思っているんだ?」
「どういうことだよ?」
ティニーが戸惑っていると、会場の大きな扉が開いて次々に入場していく。前の方にはフィオナとレーガもいるのが見えた。
「じゃあ、行くぞ」
ギンスに声をかけられ、ティニーは仕方なく腕に手を添えると、背筋を伸ばして頷いた。
「じゃあ、よろしく」
2人は王宮の大広間の扉へ向かうと、声高に響く楽器の音とともに華やかな舞踏会へと足を踏み入れた。
「もっと笑えって。眉間にシワがよってる」
小さな声でギンスが小言を言ってくる。
「シワなんて寄せてないよ。ちょっと緊張しているだけ」
「元、王子の婚約者だったから、こういうの慣れているだろ?」
「そんなの忘れたよ。今の私はあの時の私じゃない」
確かにドレスを着たり化粧したり、あの頃はいろいろとした。だけど、今は騎士だ。
ギンスを見ると、彼は品の良い令息らしく優雅に歩いていた。深い紺色の正装もギンスを洗練された男性に見せている。普段の剣を振るう姿とはまるで違って、見違えた。
(負けるか)
ティニーも微笑むと、優雅に見えるように歩いた。
「……へえ、さすが。なかなかやるな」
「そうでしょ?見直したか?なんてね」
「見直さなくても、お前はいつも綺麗だよ」
「……!」
ギンスが貴公子らしく微笑むと、ティニーは顔を真っ赤にした。
――その様子を遠くから見つめていたレーガは、思わず眉をひそめた。
「ねえ、レーガ。あの2人っていい感じに見えるけど、本当にただの同僚でいいんだよね?」
隣にいたフィオナが鋭い質問をしてくる。
「ああ、ただのなんでもない何にもなり得ない同僚同士だ。オレがフィオナのエスコートをするから、彼女のエスコートを頼んだにすぎない。気にするな」
回りくどい言い方をして、自分が意外と嫉妬深い男なのだと、レーガは思った。




