王子の甘い時間をぶち壊した3人のぎこちない仲直り
喧嘩の収まった王宮の庭は、夜の帳に包まれ物静かだ。
――柔らかな月明かりが、花の色を銀色に染めて噴水の水面は揺れるたびに煌めいて美しい。
「ナリオーネ、夜の庭も悪くないだろう?」
ヘンリーニは微笑みながら、ナリオーネの手を取って庭を歩いていた。
「ああ、君はとても美しい。あの岩女とは違ってなんて可憐なんだ。瞳は深い藍色の湖のようだし、髪もシルクのようだ」
「まあ、ヘンリーニ様ったら。ティニーの悪口だけは余計ですわ。彼女は私のお気に入りだと何度も言っているでしょう?」
「ナリオーネはティニーのことばかり褒めるではないか。私をちっとも見てくれない……」
「そんなことはありませんわ。ほら、こちらにいらして」
ナリオーネがヘンリーニのそばに近寄ると、彼女は彼を抱きしめた。
「ナリオーネ……」
ヘンリーニの唇が彼女の唇に重なろうとした時……
ガサリ――
夜の静寂を破る音に、ヘンリーニとナリオーネはビクリとした。
「……誰かいるのか?」
護衛なら少し離れたところに待機させている。こんな近くで人の気配がするとは思わず、ヘンリーニたちは緊張した。
「誰だ!?」
ヘンリーニの言葉に反応して姿を現したのは、顔に擦り傷を負った男2人、無傷の女1人だった。
「レーガとギンスではないか!」
「あら、ティニー!」
ヘンリーニはナリオーネにキスしようと抱きしめていたので、気まずそうに顔をそらした。
「殿下たちはデートの真っ最中でしたか。これは、すみません……」
ギンスが申し訳なさそうな顔をしながらも、妙にハッキリ言ったので、ヘンリーニは顔を赤らめた。
「いや、これは……その……」
ヘンリーニがしどろもどろでいると、ティニーはいち早く騎士らしくナリオーネの前でひざまずいた。
「申し訳ありません!ナリオーネ様の大切なお時間を奪ってしまいまして」
「それほどでもないわよ、気にしなくていいわ」
「ナリオーネ……」
ちょっと涙目のヘンリーニの姿に、良い気分になったティニーだった。
「さっさと行け。まったく……この庭園は兵士出禁にしてやろうか、ブツブツ……」
ナリオーネの肩を抱きながらヘンリーニはブツブツ言って去って行った。
「……ふう、驚いたな。まさか殿下たちがデートされているとは」
「ナリオーネ様が殿下と星を眺める予定だとは聞いていたが、この時間だとは油断していた」
「殴り合いがバレたら大変でしたよ。暗くて気付かれずにすみましたが」
「ああ。だが、体を動かしたせいか、少しはすっきりした」
「オレも団長と同じですね。もう言いたいことは言えましたし」
彼らは殴り合ったからか、落ち着いたようだ。
「はあ、ともかく落ち着いて良かったです」
ため息まじりにティニーが呟くと、ギンスとレーガは互いの視線を交わしながら、これからのことを静かに話し始めた。
「団長、フィオナ嬢のこと、きちんとしてくださいよ。じゃないと、オレ、ティニーのこと諦めませんよ」
「きちんとする。だから、ティニーのことはとっとと諦めろ」
レーガは、部下やアカデミー時代の後輩を熱心に調べて、フィオナの相手を探しているらしかった。
「団長、押し付けとか良くないですからね」
「押しつけなどではない!フィオナは可愛いから男たちは喜んでいる」
「どうだか」
レーガがフィオナを“可愛い”と言ったのはちょっと引っ掛かったが、話を聞いていると姪を可愛がる叔父そのもので微笑ましい気持ちが少し芽生えた。
(ギンスの告白って、もしかして団長を焚きつけるためのものだったのかなあ?)
鈍いティニーはただ笑って、彼らの話を聞いていた。




