嫉妬がもたらした月夜に交わる男たちの拳
月明かりが静かに照らす王宮の庭は、緊張の空気が一気に張り詰めていた。
レーガの氷のような視線がギンスを貫いている。
「ギンス、ティニーから離れろ」
レーガの声は怒りに震えていた。
ギンスはティニーを離すと、レーガを見返した。
「団長、正直に言いますが、オレはティニーが好きです。ティニーを納得させようとしているみたいですけど、オレが納得できません」
「なんだと?」
ギンスがとんでもない爆弾発言をする。
(ギンスが私を好き?……聞き間違いじゃないよね?)
ギンスとの仲はいいけれど、まさか自分を女性として見ているとは思わず、ティニーは確かめるようにギンスを見た。彼は真面目な顔をしていた。
「ティニーは私の婚約者だ。礼儀知らずの小僧めが」
「礼儀知らずだなんて言われる筋合いはないです。だって、団長は勝手だ。何ヶ月も離れていたくせに令嬢を連れて帰ってきた。しかも、その令嬢は元婚約者なのですよね?ティニーの気持ちをぜんぜん気にしていないじゃないですか!」
「やめてよ、ギンス!」
慌ててティニーが間に入るが、ギンスは話続けた。
「任務でドラゴン退治に行っていたのは理解できますよ。でも、手紙の1つでも送りましたか?」
「それは……反省している。だが、理由はあった。……ドラゴンのねぐらは山奥だ。手紙を送れる環境じゃない。だからこそ、一刻も早く戻ろうと戦っていたんだ」
「一刻も早く戻りたいのに、フィオナ嬢を連れて帰ってくる時間はあったじゃないですか。馬だけならもっと早く戻れたでしょうに」
フィオナは馬に乗れないため、馬車で戻って来ていた。だから、普通よりも数日、戻るのに時間がかかっていた。
「フィオナは、社交デビューさせるために連れて来たんだ。伴侶を見つけるためにな」
説明しながらレーガは拳を握り、ギンスを睨んでいた。
「……だとしても、団長よりティニーのそばにいたのはオレです。オレはティニーの支えになりたい」
「何を言っている!勝手なことを言うな。彼女には事情を説明して理解してもらった。お前が出てくる余地なんてない。しかも、上司にその態度はなんだ?」
レーガは一歩、ギンスに詰め寄ると、拳を握りしめ肩を震わせる。
「まだ半分しか仲直りしていないって、ティニーから聞いていますよ」
ギンスの言葉にレーガはティニーに視線を向けた。
「すみません……ギンスに事情を話しました」
「なぜ、こいつに話す必要がある?ギンスに無理矢理、聞きだされたのか?」
普段、冷静なレーガが感情的になっていた。
「勝手に踏み込んで、勝手に奪おうとするなど……貴様、どこまで無礼を重ねる気だ!」
次の瞬間、レーガはギンスに向かって拳を振り上げた。怒りの熱は鋭く速い。容赦のない一撃だった。
だが、ギンスは反射的にそれをどうにか避けた。
「へへ、団長、動きが遅いですよ」
「この野郎!」
再びレーガから拳が繰り出されると、ギンスも拳を突きだした。激しくぶつかり合う。
「うおっ!」
「ぐっ!」
優美な庭にそぐわない、肉体がぶつかる音が響いた。
ティニーが止めようとするが、熱くなった彼らの耳には何も届かない。殴り合いは激しさを増していき、どちらも引かなかった。
「いい加減やめてください!!」
ティニーは2人の間に割って入ると、互いの身体を引き離した。
「こんなところで争って何考えてるんですか!ここは王宮ですよ!?……お互いを傷つけるだけで何にもならないです」
「原因のお前がそういうこと言うなよ……」
殴られた顔が早くも腫れているギンスが言った。
「確かに感情的になってしまったな……」
レーガは怪我も見当たらず大丈夫そうだ。
「私が、まるで乙女のような言動をする日がやって来ると思いませんでしたよ!2人とも、いい大人なんです。こんなこと、一刻もやめるべきです」
ティニーが顔を赤くしつつ2人を叱ると、ギンスもレーガも思わず表情を緩めた。
「叱られたな」「オレもそう思いました」
2人は笑っていた。
「なんで、笑っているんですか……!」
ティニーは、彼らがついさっきまで拳を交えていたはずなのに、自分の言葉に笑って同じ言葉を返す彼らが理解ができなかった。
いつの間にか火花の消えた庭には、静かな笑い声だけが残っていた。




