訓練場の一騎打ち――勝者と敗者の想い
朝日が少しずつ高く昇り、訓練場の木々を柔らかく照らしている。
ティニーは、訓練場でいつものように訓練に励んでいた。
身体が少しずつ温まってきて、リズムよく刀を振るう感覚が心地よい。ギンスも横で素振りを始めた。
「よう。なんだか機嫌良さそうだな。なんかあったか?」
「機嫌いいかは分からないけど……団長と半分だけ仲直りしたよ」
「半分だけってなんだよ?」
心なしかギンスの目が鋭くなる。
「団長が私に事情を話してくれた。団長はフィオナ嬢に“いい人が見つからなかったら嫁にもらってやる”というようなことを言っていたらしいんだ。それで、彼女が本気にしていたっていう……彼女にはこれからきちんと言ってくれるみたい。だから半分だけ仲直り」
「それって半分って言えるのかよ」
ギンスが不服そうな声を出した。
「団長って不器用な人だなって思ったよ」
「それでお前はいいと思っているのか?振り回されて嫌な思いをしたくせに」
「……やけに突っかかるなあ」
「心配してやってるんだよ」
ギンスは木剣を振る手を止めて、こちらを真剣な表情で見ていた。
「……信じてみることにしたんだよ。もし、それでも上手くいかないことがあったら、また慰めてくれ」
「わかった」
半ば冗談で言ったのに、どこまでも真面目な調子で返された。
ギンスは離れていくと、男性騎士と模擬戦を始めた。
「真面目なやつだよなあ……自分のことでもないのに」
ギンスが模擬戦の相手と剣を交えている姿を眺めていると、声をかけられた。
「ティニー、何を見ている?」
「あ、団長。……彼ら、なかなかやりますよね」
何となく答えると、レーガは彼らの元へと真っすぐ歩いて行った。
「おい、ギンス。オレが相手になる」
ギンスは剣を交えるのを止めると、レーガを警戒するように見る。
「団長が?殿下の護衛業務はどうしたんですか?」
「今日は他の者が付いている。オレも訓練しないと腕が鈍るからここに来た。相手をしてやるぞ」
レーガが静かな笑みを浮かべながら言うと、ギンスは軽くうなずいて剣を構えた。
2人は互いに睨み合うと、間合いをはかる。
最初の一閃が交わされたかと思うと、ものすごい勢いで刃と刃がぶつかり合う音が鋭く響いた。
ギンスの動きは素早い。だが、レーガは冷静に重い一撃でギンスを追い詰めていた。
ギンスは鋭い連続攻撃を繰り出すが、レーガがものともせずギンスの木剣を弾き飛ばした。
「くっ……!」
ギンスが慌てて体勢を崩したところに、レーガが首に剣を突きつけていた。
「まだまだだな」
「くそう、負けたか……」
息を切らしながら木剣を拾い上げ、ギンスは潔く頭を下げた。
そのまま、訓練場の入口にいるティニーの方へと歩いてきた。
「ギンス、良かったよ」
「どこが。オレ、負けたんだぞ」
「そりゃ当たり前だろ。相手は団長……」
最後まで言わないうちにギンスが通り過ぎていく。
(負けたことが悔しいんだろうけど、ドラゴンも倒す人が相手じゃ敵わないよ)
不思議に思っていると、レーガが微笑んでこちらを見ていた。
「たまには訓練場で汗をかくのもいいな」
「団長が強いってことを実感しました」
強くて実力ある人だとやはり感じた。
「ティニーの前でいいところを見せられて良かった」
そばまで来ると、秘密を話すみたいにレーガが照れくさそうに言ってきた。
(私にいいところを見せたかったか。この人は……)
子どもみたいなところもあるのだなと思った半面、負けたギンスの方も気になった。
(あいつ、負けてカッコ悪いと思ったからあんなことを言ったんだろうな)
後で、慰めてやろうと思ったティニーだった。




