心の距離──甘い言葉が繋ぐ絆
ドキドキしてワインの残りを飲み干した。
喉がほんのり熱い。
レーガがじっと自分を見ている。
「ティニー、オレは君を本当に気に入っている。気に入っているというと偉そうだが、正直な気持ちだ。君とオレと過ごした時間が少ない分、これからもっと強いつながりを持てると思っている」
(そこは、“愛してる”とか言ってくれたらいいのに)
自分も恋愛には不慣れだが、レーガも不器用な人だと思えた。
――店を出ると街の賑わいが少し落ち着いていた。
石畳の路地は月明かりに淡く照らされ、微かに涼しい風が通り抜けていく。
「こうして君と夜の街を歩くのは新鮮だな」
「そうですね。なんだかとてもプライベートな時間だと感じます」
言葉に反応したレーガが手を握ってきた。
「あの……」
お酒が入っていい雰囲気に流されそうに……なるが、ティニーはその手をパッと離した。
「ティニー……」
「まだ、問題は全て解決していませんよ」
固い女だな、と思われたかもしれないが、うやむやなまま仲を深めたくなかった。
「私、なんとなくでこのままいくのは嫌なんです。器用じゃないんで、スッキリ、ハッキリしてくれないと。どうすればいいか分からなくなるから……」
「すまない。今すぐにでも解決したいが……少し時間をくれないか?」
「わかりました」
街の広場まで歩いていくと、中央には大きな噴水があって水音が静かに響いていた。ティニーとレーガはその縁に並んで腰を下ろす。
夜風が心地よく、月明かりが水面に揺れていた。
「……こうして並んで座るのも、なんだか不思議な気分だな」
「そうですね。昼間とは違って、静かで……落ち着きます」
ティニーが答えると、レーガは少し間を置いてから言葉を継いだ。
「君は、どんな花が好きなんだ?」
「え?」
突然の質問にティニーは目を瞬かせた。
「いや、ふと思っただけだ。君の好きなものを、もっと知りたいと思って」
「……そうですね。野花とか、特別ではなくても可愛い花が好きです」
「君らしいな。……ああ、あと、好きな食べ物は?」
「それも聞くんですか?」
「その……今夜は、君との時間を少しでも長く感じていたいから」
ティニーは思わず笑ってしまった。
「団長って、本当に不器用ですね。人のことは言えませんが」
「今は“団長”じゃなくて、“レーガ”と呼んでくれ」
「……それは、問題が解決したら呼びます」
「手厳しいな」
レーガは肩をすくめながらも、どこか嬉しそうだった。
「フィオナ嬢、団長のことを諦められるのでしょうか?」
「厳しく言う」
「厳しく言えるのですか?厳しくないから懐かれていたんじゃないですか?」
「う……」
痛いところをつくと、レーガが苦い顔をした。
「私は、誰にでもいい顔をする人は好きではありませんね」
「いい顔なんてしてない。ただ、思った以上によく思われただけで」
「モテるんですね。団長は」
わざとツンとして言うと、レーガはなぜかにやけていた。
「なんでにやけているんですか?」
「いや、嬉しいと思ってしまった。嫉妬されているようで」
まさかの反応で驚いた。彼は嬉しそうに手で口を覆っていた。
「そんなに喜ばなくても。嫉妬……はしていたかもしれませんね。フィオナ嬢を連れてきてお姫様みたいに扱っているのを見ましたし」
「そんなふうに思われていたのか」
「最後には呆れていましたけれど」
恥ずかしくなったのもあってチクリと言った。
「呆れられていたか……」
レーガはすぐに気を引き締めた顔になった。
(意外と単純なところがある人だなあ)
話せば話すほど、知らない面を知った。多分、レーガも案外、自分に意地の悪いところがあるとは知らなかったのではないかと思えた。
「意地悪なことを言いましたね」
「いや、全てはオレが悪い。配慮不足だった。これからは、君が安心できるようにもっと話すようにする。約束する」
「……ありがとうございます。そう言ってもらえて、少し安心しました」
レーガはティニーの手を握ろうとして手を引っ込めた。
「少しだけなら手を握っても構いません……」
レーガは少し照れくさそうに微笑むと、ゆっくりと手を伸ばした。
今この瞬間だけは――心の距離が、ほんの少し近づいた気がした。




