野駆けに揺れる想い――どうすればいい?
風が頬を撫でて草原の匂いが鼻先をくすぐる。
「なんて言った?」
ギンスがなにやら言ったけど、波の音と風の音が合わさってよく聞き取れなかった。
「もう一回言って」
「……いや、またきちんとした時がきたら言うよ」
ギンスは立ち上がると、手をティニーに伸ばした。
「ここは落ち着くよな。また来ような」
ティニーが笑顔を向けると、ギンスが少し赤い顔でうなずいた。
「なんできちんと返事しないんだよ。うなずくなんて、どこかの令嬢か!」
突っ込むと、ギンスがうるさそうな顔をした。
「たまにはいいだろ。そろそろ行こうぜ」
朝早く出てきたのに、もう太陽は頂点を超えている。帰る頃だった。
――城に戻ると、部屋に手紙が届いていた。
レーガからだった。
「手紙?」
しばらく放っておいてくれといったから、手紙を書いたらしい。
≪ティニーへ
直接話すべきだと思ってはいるが、このままでいるのは心苦しく、手紙を書いた。嫌な気持ちになるかもしれないが、どうか最後まで読んでほしい。
オレは、ドラゴン退治の任務の間、長らく君に会えないことがとても寂しかった。
長い間会えずにいて、君がオレから心が離れないかと心配もした。
だから、戻ってきた君が元気そうで安心したんだ。だが、ギンスと模擬戦をする姿を見て、心は穏やかではいられなかった。
君がずいぶんとギンスに心を許しているように見えたから。
こう書くと、まるで君を責めているようだな……。
フィオナのことはすまない。
彼女とは確かに一時期婚約者としていたこともある。だが、それは正式なものではなく、フィオナのための約束だった。
これは、君と直接会った時に話したい。
オレの行動が君の心に不安を与えたことを痛感している。君を傷つけるつもりは微塵もなかった。
むしろ君を守り、尊重したいと思っている。オレの配慮が足りず、君に辛い思いをさせたことをどうか許してほしい。
レーガ≫
ティニーはその手紙を読み終えると、ベッドに仰向けに寝ころんだ。見えるのは天井だ。
(野駆けの時に見た青い空とは違って爽快感はゼロだな)
今の自分の心みたいだと思えた。
外の風がカーテンを揺らす。
(何が正しくて何を信じればいいのかな)
ティニーは目を閉じ、1日を振り返った。
野駆けに誘ってくれた良き仲間、そして、殿下に紹介され婚約した騎士……
「あーあ、やっぱり結婚なんて面倒だな」
でも、レーガの手紙からは、彼の自分に対する気持ちも少し感じることができて、正直嬉しさを感じた。
「恋愛初心者の私にはよくわからないよ。どうすればいいのか」
ひとりごとが部屋に静かに響いた。
誰かに頼りたい気持ちもあるのに、素直になれない自分がいる。
ふと、窓の外の夜空を見上げると、とうに日は暮れて星は遠くに見えた。
「ダメだな。いつから私はこんなに不安定になった?」
ものすごく乙女な気持ちになっていて、自分で驚いた。
「これって、ちゃんと恋愛してるってことかなあ」
ティニーはそっと目を閉じた。星の光が、遠くから静かに彼女を見守っているように感じられる。
(答えはまだ出せない。でも、誰かを想って揺れる心は、きっと間違いじゃないよな)
今は焦らず、自分の気持ちに正直でいたい。そう思えた。
「……明日も、ちゃんと私でいよう」
ティニーは深く息を吸い込むと、静かに呟いた。
夜は静かに更けていった。




