心を許せる仲間にそっと涙を見せた夜
「なんで泣いているんだ?」
肩を掴まれた。
「なんか、あったのか?」
「……なんでもないよ。ちょっと目にゴミが入って染みたんだよ」
「お前、絶対ウソついてる。こっち来いよ」
ハンカチを渡され、連れて行かれたのはバルコニーだった。
「なんでこんな人の多い所に連れてくるんだよ」
泣き顔を見られたくないティニーは抗議する。
「端っこなら目立たない。むしろ、自分たちの世界に入っているから、ほかのことなんて気にしないさ」
「そういうものかな……」
半信半疑ながらついていくと確かに皆は2人の世界に入っていて、こちらなど見ていなかった。
隅の方に行くと、ギンスはティニーと向き合った。
「で、なにがあった?本当のことを言えよ」
「……あの後、団長と話していたらフィオナ嬢が割り込んできて言ったんだ。“私の元婚約者と何してるんだ”と」
「元婚約者だったのか、あの令嬢」
「そうみたい」
ティニーが視線を床に落とすと、ギンスが明るい声を出した。
「でもさ、過ぎた話だろ。今はお前が団長の婚約者なんだし、気にする必要ないじゃないか」
「本当にそう思うか?じゃあ、なんで団長は彼女を連れてきた?領地に戻って我に返ったんだよ。やっぱり女性らしいフィオナ嬢がいいって」
「……団長に確認したのか?」
「そこまでは聞いてない。けど、私との婚約は殿下の命令だと言っていた」
「命令……」
ギンスは眉をひそめ、少し目を伏せた。同情されたようだ。
「いいんだよ。私だって殿下から言われなければ、団長と婚約することもなかった。うまくいっている気もしていたけれど、気のせいだったよ」
「だったら、オレが……」
「手を放せ、ギンス」
冷たい声が響いた。振り返ると、いつの間に来たのかレーガがこちらを見ていた。
「団長、いつからそこに……」
「2人が一緒に歩いていく姿を見かけたから、急いで追いかけてきたんだ」
レーガの額には汗が光っていた。言葉どおり、急いできたのだろう。
「フィオナ嬢はどうしたんです?」
「彼女は部屋に戻らせた」
「そばにいなくていいんですか?」
「……どうしてそんなことを言うんだ」
レーガはわずかに眉を寄せ、困惑したようにティニーを見つめた。
「団長、このハンカチが見えますか?ティニーを何で泣かせるようなことをするんですか?」
ギンスが1歩前に出た。
「お前に言われる筋合いはない」
「泣いてるティニーを放っておけるわけがないでしょう。彼女は泣きながら外廊下を走っていましたよ。なんで、あの令嬢を連れて帰って来たんですか?配慮がなさすぎるでしょう?」
「だから、お前に言われて説明する筋合いはないと言っている。どけ、彼女に説明する」
レーガはギンスを押しのけると、ティニーの手を取った。
「……離して下さい。私、今、団長と話したくありません」
「ティニー!」
レーガの焦る声がしたが、ティニーは顔を背けた。
「説明させてくれ」
「今、混乱しているんです。……さっき、あんなことを言われて、私なりにショックを受けました。少し放っておいてもらえませんか。冷静になるまで」
下を向いたまま頑なに顔を上げないティニーに、レーガはしばらく迷っていたが、やがて重い決断をしたかのように、そっとその手を離した。
「混乱させてすまない。事情があるんだ。君が落ち着いたら改めて説明したい。いいだろうか?」
「……はい」
いくらか落ち着いて言うと、そっとレーガの手が頬に伸びてきた。
思わず手を振り払った。
「触らないで下さい……」
気配でレーガがショックを受けているのが分かった。
「すみません」
「……本当にすまない」
立ち去る前にレーガはギンスの方を向いてボソリとつぶやいた。
「今だけはティニーを頼む」
「分かりました」
レーガが完全に立ち去ると、ギンスがポンとティニーの肩を叩いた。
「もう、行ったぞ。顔を上げろよ」
顔を上げるとまた新しい涙が1つ、すーっと流れた。
「なんで、まだ泣くんだよ……」
「泣きたくないよ。勝手に出てくるんだよ」
「自分を傷つけたやつのために泣くなよ。時間がもったいない」
ギンスが、ティニーの金髪を優しく撫でた。




