元婚約者の乱入で傷つけられた心
レーガは仁王立ちしていた。
「ギンス、さっさとティニーから離れろ!」
ギンスは立ち上がり、ティニーの手を取って起こした。
レーガが歩み寄る。
「団長、ようやく戻ってきましたね」
「それより、どうしてこうなっている?」
眉間にはシワが寄っていた。
「ティニーがオレと本気の勝負に挑みたいということで対戦していました」
「ずいぶんと膠着したみたいだな?」
「ティニーには危うくやられるところでしたよ」
ギンスが笑って言ったが、レーガはどこか棘のある声を出した。
「勝負は引き倒される前につけるものだ」
ティニーは自分の未熟さを指摘された気がしてドキリとした。
「もっと鍛錬します」
ティニーが言うと、レーガは渋い顔でうなずいた。
「ティニー、ちょっと話がある。残ってくれ」
「はい」
騎士仲間はなんだろうと興味深そうに見ていたが、大人しく引き上げていった。訓練場に2人きりになると、風の音が聞こえるぐらい静かになった。
「……元気にしていたか?」
「はい。レーガ様も元気そうで安心しました。ですが……」
あの令嬢のことを聞いていいものかと迷った。なんと言おうかと口をもごもごさせていると、レーガが口を開いた。
「会えなかった2ヶ月間、ギンスとだいぶ仲が良くなったのだな」
「……仲が良いと言えばそうでしょう。あいつは負けん気が強いですし、そういう意味では合いますから」
「む……。さきほど、ティニーがギンスに組み敷かれているのを見て、オレは平常心ではいられなかったが」
ムスッとした顔をされたので、さすがに嫉妬だとわかった。
「もしかして、嫉妬したんですか?」
「……答えるべくもないだろう」
「意外です」
「なんだって?」
令嬢を連れてきたことを差し置いて、嫉妬するなんて勝手だと思えた。
「あの連れて来た令嬢は……」
「レーガッ!!何してるのよ!」
こちらに猛烈な勢いで近寄ってきたのはフィオナだ。ドレス姿とは思えないほどの速さだった。
「ちょっとあなた!私の元婚約者と何してるのよ!」
「フィオナ!」
レーガが慌てて彼女を止めた。
「元婚約者?」
「あなたは知らないでしょうけれど、殿下があなたをレーガの婚約者に指名しなければ、私は今頃、レーガと結婚していたのよ!」
「え……?」
「ティニー、違うんだこれは!」
レーガが明らかに焦った表情を見せた。
「レーガ、なんで隠すのよ!本当のことでしょ!?」
「あれは事情があってのことだろう……」
彼らの言い合いに、自分の知らないなにかがあったのだろうと思った。
「……あの、何だか知りませんが、私との婚約は乗り気ではなかったということですよね。殿下の命だから仕方なかったと」
「殿下の命ではあったのは間違いないが……」
「もう聞きたくないです。わかってますから。失礼します!」
“殿下の命であった”その言葉だけで充分だった。ティニーは踵を返すと、訓練場を駆け出した。
(私はなにを期待したんだろう……)
自分好みの男性に少し良くされて浮かれた自分に腹が立った。
きっと、レーガはドラゴン退治の任務で領地に戻り、フィオナに再会してふと我に返ったのだろう。
“なんで犠牲にならなくてはいけないのだ”と。
(私だって、このままの自分でいいという人と結婚したいよ……!)
ティニーは外廊下を駆けながら痛む胸を抑えた。
「ティニー……?なんで、泣いてる?」
「……ギンス」
誰かにぶつかったと思ったら、ギンスだった。
彼と目が合ったティニーは涙がポロポロとこぼれた。




