勝手に暴露したギンスと、忖度ナシの一本勝負
サラシを巻き直し、急いで宮殿に戻ったティニーの髪は走ったせいですっかり乾いていた。
「まずいまずい……」
お茶会の部屋に辿り着くと、すでにヘンリーニとナリオーネが席について和やかなお茶タイムを楽しんでいた。
「すみません!遅れました!」
頭を勢いよく下げると、ヘンリーニが嫌味を言った。
「遅れるなら、来なくていいのだがな」
「そんな意地悪なことを言わないでくださいませ。ティニーは汗を流してから来てくれたのよね?」
ナリオーネがフォローしてくれた。
彼女にニッコリと微笑むと、ヘンリーニに睨まれた。
「お前の席は無いぞ。遅れたのだからな」
「そんなのダメ!」
ヘンリーニたちが言い合っていると、窓際で控えていたギンスが口を開いた。
「恐れながら……彼女は大事なことを忘れていたがために、かなり遅れたのです」
「なんだそれは?」
「それは……彼女の身だしなみですね」
「身だしなみ?わからん。ハッキリと言え」
「……彼女はサラシを忘れて戻ってきたのです」
ヘンリーニは思わずティニーの胸元を見た。
ティニーは自分の胸に視線を感じて、気まずくなり思わず視線を逸らす。
「……コホン。ならば仕方ない」
「ヘンリーニ様ったら配慮がないですわね」
ナリオーネはプンプンしながら彼の甲をつねった。
「痛いっ」
「女性の胸を見たのですもの、当然ですわ」
「すまない。そういうつもりじゃないんだ」
「ぷんぷん」
「ナリオーネ~」
お茶会はヘンリーニがナリオーネの機嫌をひたすらとる時間となった。
結局、ヘンリーニがナリオーネのために新しいドレスを贈ることでようやく機嫌が直り、お茶会もお開きとなった。
当番制の護衛を務めるギンスもヘンリーニたちについて部屋を出ようとしたところで、ティニーはギンスに密かに蹴りを入れた。
(このっ、勝手にサラシのことを話すなんてひどいぞ)
ギンスは一瞬、顔をしかめたが何事もなかったようにすまして出て行った。
――翌日、ティニーはメイと訓練場で模擬の剣と槍を使った稽古をしていた。
「ダリャアッ~!!」
「もっとふんばってから切り込む!」
熱血指導をしていると、ギンスが近づいて来た。
「ティニー」
「なんだよ?私は今、忙しいんだ」
「話したいことがあるんだ」
「なにを?」
ギンスが突然頭を下げたので、ティニーだけでなく周囲の女性騎士たちも目を見開いた。
「昨日は勝手にあんなことを話してすまない。お前が理不尽に怒られていたからつい……配慮が足りなかった」
「……ああ、そのことか。お前のスネを蹴ってやったしもういいさ。お前は私を庇ってくれたのだし」
ティニーが笑顔を見せると、ギンスもほっとした表情を浮かべた。
「……あのさ、お前、完全復活したオレと戦いたいって言ったよな?怪我が治ったから対戦してみないか?」
「お。忖度してわざと負けるのはナシだぞ?」
ティニーが壁に立てかけてあった模擬用の槍を手に取ると、周囲の騎士たちが期待と興奮の声をあげた。
「ティニー様!ギンス様なんかやっつけちゃって!」
「いつも生意気なことばかり言ってるんですから、今こそ懲らしめるチャンスです!」
「ギンス、負けるなよ~。男の意地を見せてやれ!」
女性騎士たちの黄色い声援が響くと同時に、男性騎士たちはヤジを飛ばしている。
ティニーが槍を構えると、ギンスも剣を縦に構えた。
一瞬、睨み合う。
先に攻撃に出たのはギンスだった。
剣を柄で振り払うと、剣を斜めに構えたギンスが次の一手を繰り出してきた。
(確かに、いつもより動きが早いかも)
ティニーは再び突っ込んで来たギンスを前に、とっさに地面を蹴った。
姑息だが、舞い上がった砂でギンスの視界を奪う。
ギンスが足を止めた。
(今だ!)
ティニーは一気に距離を詰めると、槍でギンスを突き倒した。
そのまま馬乗りになって、槍の柄でギンスの首もとを締め上げた。
「どうだ?負けを認めろよ」
「ぐぅ……」
ギリギリと槍の柄で締め上げると、ギンスが苦しそうに呻く。
「負けるのは別に恥ずかしいことじゃ……」
ギンスが槍の柄を掴むと体を反転させた。形勢逆転だ。ティニーの上にギンスが覆い被さるかたちになった。
「勝ったと思って油断したな!」
「うぅ……」
「お前こそ負けを認めろよ」
「……いやだね」
そうは言ったものの、両手も抑えられてしまって万事休すだ。
「認めろって」
ギンスの赤茶色のカールした髪の毛が顔に触れてくる。ティニーは頭突きしようとしたが、彼はヒョイと避けた。
「お前は女だよ。男のオレに力では勝てない」
「は?」
(なんで、わざわざそんなことを言うんだ?)
追い詰められながらもティニーの頭に疑問が浮かんだ。
その時、ティニーは視線を感じた。
「そこまでだ!いつまでそうしている!」
訓練場の入り口には、険しい表情のレーガが立っていた。




