令嬢の正体は元婚約者!? 憂さ晴らしでかいた汗
レーガは令嬢を皆に紹介した。
「こちらはフィオナだ。オレの遠い親戚にあたる」
「レーガにおねだりして連れてきてもらったの。皆さん、宜しくね」
フィオナはウィンクした。初対面のいかつい彼らに堂々とウィンクして見せるところはなかなか肝が据わっている。
(だからと言って、レーガ様にベタベタするのは許さんぞ!)
ティニーが前に踏み出そうとすると、ギンスが先に前に出た。
「親戚の割にはずいぶんと仲良さそうですが」
「当然ですわ。だって私……ちょっと前まではレーガと“ご縁があるかも”って言われてましたのよ?」
「え?」
フィオナの言葉に衝撃が走った。皆もざわついている。
(ご縁があったって……婚約者だったってこと?)
レーガはさすがに、少し焦った様子で口を開いた。
「フィオナ、その話は昔のものだろう。今は関係ない」
レーガは言葉を詰まらせながらも、慌ててフィオナの腕を取ると、ざわつく空気をよそにその場を離れていった。
「なんだよあれ……」
ティニーが言葉を漏らすと、騎士仲間が彼女の周りを取り囲んだ。男性騎士たちは、気まずそうに視線を泳がせながらも、“ティニー、あんまり気にすんなよ”というような言葉を、女性騎士たちは、ティニーの手を取って“ティニー様、私たちがついてますから”と声をかけてくれた。
ティニーは、皆の気持ちをありがたく思いながらも、胸の奥に広がるざらついた感情をどうすることもできず、ただ静かに頷いた。
「皆、気を使ってくれるのは嬉しいが、私はそこまで気にしてないよ。なにか事情があるんだって分かっているからさ、皆も気にしないでくれ」
明るい笑顔を浮かべて言ったが、皆は気の毒そうな顔をしていた。
雰囲気を変えようと、壁に立てかけていた木剣を手に取ると一心不乱に素振りを始めた。
(なんでもない、あれはなんでもない)
素振りに集中していると、皆も訓練を再開し始めた。隣では同じようにギンスが剣を振り始めた。
「めちゃくちゃな振り方するなよ。ブレブレだぜ」
「うるさい」
「100本やるか。オレも付き合うぜ」
「……」
返事をせずにブンブン剣を振り回す。油断したら涙ぐみそうだったから。
すぐに汗まみれになった。
気分も落ち着いて、そろそろ汗を流しに行こうかと考えていると、ナリオーネの侍女が急ぎでやってきた。
「ティニー様、ナリオーネ様がお茶のご招待をしております。至急、来て頂けますか?」
「汗をかいているから、キレイにしていくよ。伝えておいてもらえるかな?」
ニコリと笑いながら爽やかに言うと、侍女は照れたような笑顔を浮かべた。
「ええ、もちろんですわ」
最近はその気がなくても、つい女性を前にするとカッコ良く演じてしまう。女性のファンが急増中だ。
(女性ばかりにモテてもな……)
微妙な気持ちで木剣をしまうと汗を流しに浴室へと向かった。
――汗を流し、急いで着替えた。
(早くせねば。ナリオーネが待ちわびている)
彼女が憎かったはずなのに好意を向けられると、不思議と可愛く思えてきていた。だからと言って惚れるわけではないが。
急いでシャツを羽織った。
(髪の毛はまだ乾ききってないけれど……遅くなるよりいいよな)
軍服のシャツ姿にズボンというスタイルになると、お茶会の部屋へと急いだ。
すると、前からこざっぱりとした様子のギンスが歩いてきた。彼も汗を流したようだ。
「これからナリオーネ様のお茶会か?」
「そうだよ。急いでいるからまたな」
すれ違うと、ギンスに腕を掴まれた。
「なに?急いでいると言っただろ」
「……ティニー、急ぎ過ぎて忘れている」
「なにが?」
「だから、その」
いつもハッキリとものを言うギンスが口ごもっていた。
「……このまま行かせるわけにいかないから言うぞ。お前、“サラシ”忘れてる」
ティニーが自分の胸を見ると、しっかりと胸の膨らみがあった。急いでいたせいでシャツしか着ていなかった。
(げ、生々しい。戻るしかないな……)
「ギンス、ありがと。お前も、見たことを忘れて」
「わかってるよ。これ、着て行けよ」
顔を赤らめたギンスが上着を脱ぐと、ティニーに羽織らせる。
「ありがと……ちゃんと洗って返すから」
「気を遣わなくていいよ。それより早く整えてこいよ」
ギンスはそっぽを向いた。
「うん」
ティニーは上着で前を隠すと、寮へと急いだのだった。




