人気者ティニーを見つめる騎士・ギンス
ティニーとレーガの交際は順調だった。
レーガとは、仕事終わりにティニーとバルコニーで1日にあったことを話す習慣ができて甘い雰囲気にはならないが、悪くない雰囲気だ。
先日、実家に一連のことを報告しておこうと手紙を送ったら、すでに今の状況を知らされていたようだった。
家族としては、殿下の妃になるよりも騎士団長のレーガの方が万々歳だったので喜んでいるらしい。
今日もヘンリーニと顔を合わせると、“レーガを大事にしろ”などと言われた。
(余計なお世話だっていうの)
心の中で毒づいていると、横にいたナリオーネが目を潤ませて言った。
「ヘンリーニ様、私、ティニーが無理していないか心配ですわ。彼女は真面目ですもの。あなたから言われたら従うしかないじゃありませんか。ティニーだって私と一緒にいたいはずなのに」
ナリオーネはまだ、ティニーに未練があるようだった。ヘンリーニとレーガが微妙な表情を浮かべる。
ティニーは笑顔をつくると口を開いた。
「ナリオーネ様に心配して頂き、ありがたく思っております。慣れぬ経験はしておりますが、幸せを感じておりますゆえ、心配には及びません」
「まあ!ティニーったら冷たいわ。私は寂しいのに!」
拗ねてしまったナリオーネの前でひざまずく。
「ナリオーネ様、その可憐なお顔を、どうか私に見せてください。あなた様を見れば、私は元気が湧いてきます」
「嘘よ!さっき、ティニーはレーガとのお付き合いが幸せだと言ったわ!」
「それはそれ、これはこれです。さあ、お顔をぜひ」
ナリオーネは赤らめた顔を見せた。
「やはり、可愛らしい!この世の美しさとは思えません」
ナリオーネの瞳がとろけるように潤んだ。
「そんな顔をされたら、勝手に体が動いてしまいますよ」
ナリオーネの手を取って囁くと、ヘンリーニに手をバシンと振り払われた。
(あ、やりすぎたか)
「馬鹿らしい!何を見せられているんだ!」
ヘンリーニがものすごく尖がった声を出した。
(ふっふっふ。嫉妬しやがれ。ヘンリーニを悔しがらせる復讐は順調だな!)
自分に暴言を言い続けたヘンリーニに対する復讐心はそう簡単には消えないぞ、と考えていた。
「ティニーは早く持ち場へ戻れ!」
ヘンリーニに追い払われた。
「では、私はここで失礼いたします」
礼をするとティニーは退出した。
ティニーは、レーガと付き合い出してから一緒の任務は良くない、と護衛から外されていた。その代わり、今は数少ない女性騎士の育成を命じられている。そのまま訓練場へと向かった。
訓練場にやって来ると、女性騎士見習いのメイが気付くなり小走りで寄って来た。
「ティニー様!今日も凛々しく美しい!」
彼女もティニーのファンである。
「はいはい、ありがと。でも、恥ずかしいよ。さて、訓練しよう」
ティニーたちの訓練の様子は、訓練所にいる男性騎士たちにもよく見えている。ベルガ王国では、男性騎士がほとんどなのもあって、女性騎士も同じ場所で訓練をしていた。
その中の1人、騎士・ギンスは……ティニーが剣を振る姿を見つめていた。
「今日もあいつはバカ元気だな」
「おい、そんなことを言ってレーガ様の耳に入ったらマズイぞ」
ギンスにアルジーヌが注意する。
「まさか、あいつを団長が気にいるなんてな」
「だから、そういうこと言うなって。少し前まで殿下の婚約者だった方だぞ。それに、辺境伯の娘だ。お前よりも爵位も上!」
「わかってるよ」
ギンスは子爵家の三男だ。剣が得意で騎士団の厳しい試験を受けてやっと入団したのもあって、最初は簡単に騎士になったティニーを良く思っていなかった。
(騎士の中心戦力は男だ。お飾りの女性騎士に大きな顔をされてたまるか)
男の意地を張っていたギンスだったが、ある日、背格好が似ていたティニーと模擬戦をすることになってその考えが変わった。
対決した時のティニーの鋭い足さばきは見事で、身軽なギンスでさえ足をすくわれた。思わず防御に回らされるシーンもあって、“……こいつ、やるじゃないか”と彼女を認めたのだ。
ティニーもギンスの爵位が自分より下だと分かると、気さくに話しかけてきた。
「お前と話すのは気楽だよ。今日も剣の稽古に付き合ってもらえないか?」
「おう、いいぜ」
ティニーの気持ちの良さも気に入って、気付くと彼女とばかり話す日が増えていた。
(……オレ、気付くとあいつを目で追っているな。もしかしてオレ、あいつに惚れたのかな……?)
自分の中に芽生えた感情に、ギンスは戸惑っていた。




