恋に鈍感な女性騎士と揺れる男性騎士の友情?
ティニーはその日、イラついていた。
順調だと思われたレーガとの交際は2週間足らずで打ち切られていた。
そして、もう2ヶ月も会っていない。一緒に過ごした時間をとうに超えた。
木剣を振り回していると、ギンスに言われた。
「イラつくなよ。団長は自領で現れたドラゴン退治で大変なんだぜ。理解しろよ」
「理解してるよ!私がイラついているのは、私もドラゴン退治に行きたかった、ということだ」
「なんでお前が。行ったって足手まといになるだけだろうが」
「は?」
ティニーがムッとする。
「お前より私の方が強いだろ」
「はあ?オレが加減してやってるのが分からないのか?」
「バカ言え。お前は私の動きについてくるだけで苦しそうだ」
「……やるか?」
ティニーとギンスは軍の訓練場にいた。本日の訓練は終わって、ほかの騎士たちは引き上げている。
スッキリしない気持ちをどうにかしようと木剣を振り回していたら、そばにギンスがいた。こうなったら八つ当たりだ。
「ああ、やろう!勝負だ!」
ティニーは勇ましく言った。
「よおし。後悔するなよ?」
ティニーは模擬用の槍を持つと構えた。ギンスも木剣を構える。
ギンスは地面を蹴ると、ティニーに向かって一撃を繰り出した。
「甘いぞ!」
ティニーは槍で剣を振り払った。
「ほんっと、お前は馬鹿力だな!」
「うるさい!ダリャー!」
ティニーは槍を振った反動を利用してギンスの脇腹に槍を突き出した。
「ぐえ」
見事クリーンヒットした。
「ほら見ろ!私の勝ちだ!」
「オレはケガしてんだよ。これが治ったら本気でやってやる」
「ホントか?仕方ないな。今日はここまでにしてやる」
ティニーは手を差し出すと、脇腹を抑えているギンスを立ち上がらせた。
ギンスがティニーの顔を見て、“あ”と声を漏らした。
「お前、額に傷ができてるじゃないか」
「え?どこに?」
額に手をやると、ギンスはその手を握る。
「そこじゃない、ここだよ」
ギンスはティニーの前髪をかき分け、おでこにできた傷にそっと触れた。
「イタッ」
「手当してやるよ」
ギンスの言葉に甘えて、手当してもらうことにした。
――兵舎に入ると、独特な匂いがしている。ギンスは戸棚を開けると、救急箱を取り出した。
ギンスがそっと傷の部分に薬を塗ってくれるが、染みて痛んだ。
「もうちょっと、優しく!」
「優しくしているつもりだよ」
「それでも痛い」
「痛みに弱いならさ、お前はなんで騎士になったんだよ。一応、女だし顔に傷なんてできたらよくないだろ」
“なんで騎士になった?”これは何度もいろいろな人に尋ねられた質問だ。
「騎士になったのは、私が辺境伯の娘だから。それに尽きるよ。傷ができるかも、なんてあんまり考えたことはない。私は強いからな」
「そういうことじゃないだろ……」
ギンスは憐れんだような表情をした。
「もしかして、ギンスは私のことを本気で心配してくれているのか?珍しいこともあるもんだ」
「からかうなよ。オレは本気で言ってる」
ギンスが怒ったような顔をするから、ティニーはふざけた態度を少し改めた。
「……心配してくれてありがと。私はさ、辺境で育ったから戦いも生活の一部だったんだよ。だから、こうして剣や槍を振り回している方が気楽だ。そんな心配そうな顔をしないでよ」
ティニーは手をグーにすると、ギンスを軽く小突くフリをしてふざけてみせた。
その手にギンスが触れた。
(こんなに手が小さかったか?)
ギンスは彼女の手の小ささにドキリとした。デカい女というイメージがあったが、彼女の手は男とは違うやっぱり女の手だった。
自分より小さな手で、さっきまでどうやって槍を振り回していたのだろうと、不思議な気がしてくる。
(やっぱり、こいつは女だよ)
当たり前のことを心の中で言った。
ティニーの手の温かな感触に、どうやって手を離せばいいのか分からなくなった。視線を上げるとティニーと目が合ってしまい、慌てて目をそらした。
「オ、オレが言いたかったのは、後悔するような人生を選ぶなってことだったんだけど、気に入っているならいいよ。オレもお前がいた方が練習になるし……」
「私がいて嬉しいなら、嬉しいって言えよ」
ティニーはギンスの気持ちなど知らずにまたふざけた調子で言った。
「おい、オレは真面目に言ったんだぞ」
「私もギンスといると楽しいよ。お前とは率直に話せて楽だし」
「楽……ね」
「うん、楽」
ティニーがニコリとすると、ギンスは少し目をそらした。
「手当ても終わったし、食堂に行こうぜ。腹減った」
「ああ、お腹ペコペコだ」
ティニーとギンスは食堂へと向かったのだった。




