第九百二十七話
素戔嗚命様は翌朝からの攻略に意欲を燃やしていた。目標は三十四階層の岩山亀だ。
気合を入れた素戔嗚命様が放つ神気は昨日より抑制が緩く、三十階層の動くヨロイは神気に触れるだけで消え去った。
その威力は当初俺でも少しキツイくらいだったのだ。少しして慣れたのか楽になったが、ダンジョンモンスターが抵抗出来るようなものではなかった。
「玉藻殿、これはダンジョンの嫌がらせか?」
「これに関しては作成者を正座させ滾々と説教してやりたいですね」
素戔嗚命様が顔を顰めた相手。それは三十一階層のストーンワームだった。地中からの奇襲に加えて撒き散らされる悪臭。素戔嗚命様のような正統派の戦士が最も嫌がる相手だろう。
素戔嗚命様の神気に触れれば即座に消滅するのだが、消える前の僅かなタイムラグに放たれる悪臭は神をも不快にさせていた。
「只人がこ奴らを退治しておったのか?」
「いえ、ここまで到達出来る人は極少数な上、退治に成功した者も討伐例も数える程に御座います。この階層を越えられたのは、皇居ダンジョンの特別攻略部隊のみに御座います」
そう考えると、あの特別攻略部隊はとんでもない実力者だった訳だ。正真正銘世界の最先端を行く探索者達だからな。
倒すのが面倒という理由により、三十二階層への渦に直行する。その気で駆け抜ければストーンワームが出現しても置いてきぼりに出来るから問題ない。
「良き良き、やはりこうでなくてはいかん。安心して殴れるわ」
「ご存分にお殴り下さいまし」
スリープシープは殴っても・・・正確には神気で消しても悪臭を放たない。素戔嗚命様にとってはそれだけで高評価なようで、機嫌よく殴り魔石や羊毛に変えている。
普通ならその評価基準はどうなんだ?とツッコむ所だが、俺も同意見なのだ。あれを体験した後だと臭わないというだけで評価を上げてしまう。
「素戔嗚命様、この羊毛で作成した寝具は安眠に効果がありまする。よろしければ人の職人に加工させますが如何致しましょう」
「確か、姉上の所に優れた職人がおったと記憶しておる。素材を分ければ加工を依頼する事もできよう」
スリープシープの羊毛で作られた、神の職人の手による寝具。一体どんな性能の寝具になるのやら。もし人が使ったらあまりの気持ちよさに永眠したりして。
「た、玉藻殿。なにやら視線を感じるのだが気の所為かのぅ」
「いえ、決して気の所為ではないかと存じます」
その後、素戔嗚命様と俺は三十二階層をくまなく走り回りスリープシープを一頭残らず殲滅していった。
「これで金ダライは落ちてこぬと思うが・・・玉藻殿、またここに回収に来たいのだが手配を頼まれてくれぬか?」
「御心のままに。このダンジョンは陸軍情報部の管理下に置かれておりまする故、話を通しておきまする」
管理責任者が関中佐なので、断られる事は無いだろう。関中佐との接点を持った過去の俺、よくやったと褒めてやりたい。
「もうおらぬか。では次の階層に参ろうぞ」
次の階層に出るのは魔法クラゲか。素戔嗚命様の好みと外れるから、素通りする事になりそうだな。




