第九百二十六話
「くっ、二十八階層のモンスターより弱いとは!」
「弱い訳では御座いませぬ。鉄カブトは甲虫型モンスターでしたので防御力が高かったので御座います。二十九階層の朱カブトはクマ型モンスターな為、防御力は少し落ちるという次第に御座います」
神気により敢え無く魔石へと変わる朱カブトに失望する素戔嗚命様。しかし、鉄カブトが防御特化であっただけで朱カブトが弱いという訳では無い。
防御力では劣るが、攻撃力は朱カブトの方が上の筈だ。素早さは、飛ぶと鉄カブトの方が速いが地上では朱カブトに軍配が上がる。
「もっと本気で戦える相手と矛を交わしたいものよ。玉藻殿、我に相応しき相手は何階層におる?」
「三十二階層のスリープシープは眠らせる故搦め手じゃな。三十四階層の岩山亀ならば期待出来るかと」
神気に耐えられるかは分からないが、あの亀さんでダメなら他には思いつかないな。
「そうか、では三十四階層まで駆け抜け・・・ぶべしっ!」
いきなり素戔嗚命様の頭上に出現した金ダライが素戔嗚命様の頭部を直撃した。これまた良い音を響かせていたのだが、宇迦之御魂神様の御業であろうか。
『お父様、いつまで引っ張り回すおつもりですか!地上ではもう真夜中なのですよ!』
「あたたたた・・・少し乱暴ではないか?地上は真夜中であろうとも、ダンジョンを進むに支障は無い。何を怒っておるのだ」
宇迦之御魂神様の怒声が響く。ハリセンだけでなく金ダライまで出現させるとは、宇迦之御魂神様恐るべし!
『お父様は平気でも、玉藻は半神なのですよ。睡眠も食事も必要なのです。これだからオジサンは・・・』
「ちょっ、まだオジサンと呼ばれる年ではないぞ!」
素戔嗚命様、反論するのそこですか。でも、確かにオジサンと呼ばれる年ではないですよね。二千年は超えられている筈ですから。
「済まぬな玉藻殿、今日はここまでで迷い家に戻るとしようぞ」
『あっ、罰としてお父様の食事とお酒は抜きにして下さいね』
「娘よ、それは酷くないか?せめて酒だけは!」
素戔嗚命様の懇願に応える事なく、宇迦之御魂神様はお返事を返さなかった。徹夜は回避できたし、お酒くらいならお出ししても良いかな。
という訳で迷い家に戻り、俺は陸軍のレーションで手早く夕食をとり素戔嗚命様には奉納されている日本酒と拡大試作で在庫があった突撃牛のジャーキーをお出しした。
宇迦之御魂神様のお社にはお酒とジャーキー、干し柿を奉納した。手抜きになってしまったが、これから調理をしていては遅くなってしまう。
『そなたも律儀よのぅ。明日でも構わぬのに』
「作り置きになってしまい、申し訳御座いませぬ。明日はちゃんとした料理を奉納致します故」
『お父様の世話で苦労をかけるが、成果は出ておる。そなたの利にもなる故、よしなにな』
成果とは、ダンジョンの中で会話を繋げたりハリセンや金ダライで素戔嗚命様にツッコミを入れた事だろうか。
神界からダンジョンの素戔嗚命様にツッコミを入れる事が俺の利になるとはどういう事なのか。新たな疑問を抱きつつ明日に備えて眠るのであった。




