第九百二十八話
「・・・つまらん」
不機嫌を隠さず通り道のクラゲを消しながら走る素戔嗚命様。ここ、三十三階層の魔法クラゲは文字通り魔法戦のモンスターだ。
殴り合い上等な素戔嗚命様には歯応えが無さすぎて、スリープシープとの落差もあってかなりご機嫌が悪い。
「玉藻殿、次は本当に期待して良いのだな?」
「次なる階層に現れます大亀は、先のスリープシープ以上の難敵に御座いますれば」
不機嫌により制御が乱れているのか、素戔嗚命様から漏れ出る神気の強さに波がある。それを六本の尻尾により上手くいなしながら追走する。
「むっ、いきなり停止するとは、如何いたした?」
「もっ、申し訳御座いません。いつの間にか増えた尻尾に戸惑ってしまったのです」
俺の尻尾は五本だった筈だ。昨夜寝る前のお手入れでも五本だったのは間違いない。しかし、何度数えても俺の尻尾は六本あった。
「尻尾が増えた事に気付いておらなんだか。考えるのは後にするがよい。今は進む事こそ肝要だ」
素戔嗚命様が言われる通り、今考えた所で尻尾の数が戻る訳でもない。検証などは後回しにするべきだろう。
そして到着した三十四階層。渦から出てすぐに岩山亀の巨体が幾つか目に入る。いつもならばあの巨体にウンザリする所だが、今回は違った。
「あれなら玉藻殿が言うように期待出来そうだな。では早速試すとしようぞ」
素戔嗚命様は玩具を見つけた子供のように無邪気な笑顔を浮かべて手近な岩山亀に突進していく。岩山亀がそんな素戔嗚命様に気付かぬ筈もなく、岩塊の槍が複数素戔嗚命様に放たれた。
「ふはははは、良いぞ、良いぞ。この質量、この速度。中々に見所のある攻撃ではないか」
常人が受ければちょっと放送出来ない惨事となる岩塊も、素戔嗚命様にかかれば丁度良い遊び道具となるようだ。
「おっと、岩塊を目眩ましに体当たりとな。益々良いわ、玉藻殿、こいつは気に入ったぞ!」
突進を素手で受け止めた素戔嗚命様が上機嫌で叫びつつ拳を岩山亀の顔面に叩き込む。そう、止められた岩山亀は素戔嗚命様のパンチを食らったのだ。
受け止めた際に浴びる素戔嗚命様の神気に耐えたばかりか、振るわれた拳が纏う神気にも耐え拳にて昇天したのだ。素戔嗚命様が喜ばぬ筈が無い。
「異界の者も気の利いた物を寄越したものよ。ほれ、玉藻殿。次の亀に向かうぞ!」
満面の笑みを浮かべて次の岩山亀に突撃する素戔嗚命様。その異様さに、人を襲うようインプットされている岩山亀が引いているように見える。
「これは良い、ここに暫く滞在したい程じゃ。ほれほれほれほれ!」
引きながらも岩塊射出からの突進というプログラムを律儀にこなす岩山亀。向かい来る岩塊を楽しげに打ち落とし突進してくる本体を受け止め、殴り飛ばす素戔嗚命様。
『あれ、金ダライで止まるかのぅ・・・』
呆れた声で呟き深いため息をつく宇迦之御魂神様のお声が聞こえたのは、きっと気の所為ではないだろう。




