第九百二十四話
「ふはははは、これよこれ。こうでなくてはいかん」
ブロンズゴーレムの右ストレートをヘッドスリップで躱した素戔嗚命様が、カウンターで右ストレートを返す。拳そのものが当たる前にブロンズゴーレムは魔石へと変化した。
十八階層のスタンスラッグや十九階層の夫婦鶏は素戔嗚命様のお気に召さなかったのだ。粘液塗れなど邪道だし、夫婦での挟撃は小賢しいと憤っていた。
その点、ブロンズゴーレムは体力の多さと身体の硬さが売りのモンスターだ。神気で消えてしまい戦いにならないとしてもマシなのだろう。
ビッグトードや赤獅子も体格が良く体力と力が優れたモンスターだが、素戔嗚命様に合格点を頂ける程ではなく鎧袖一触で魔石に変えられていった。
「こいつは確か、あやつが騎乗しておったのと同じではないか。連れ帰るのも一興か」
素戔嗚命様が興味を持ったのは、二十五階層のスレイプニルだった。かつてイタズラ好きな神と組んでダンジョンの設定の変更に加担した知恵の神。彼の愛馬がスレイプニルなのだ。
「地上に連れ出しますと氾濫の原因となりますが、神界に連れ帰るとどうなるのかは前例がありませぬ故分かりませぬな。しかし、もし連れ帰る事が出来たとしても神気で消滅するのでは?」
素戔嗚命様がスレイプニルの突進を受け止めると、一瞬衝撃が素戔嗚命様に伝わったようだがスレイプニルは神気により魔石に変じてしまう。
その程度の耐性では神界に連れ帰ってもすぐに神気に侵され消滅してしまうのがオチだろう。オーディンの愛馬は神気に慣れさせた個体なのではなかろうか。
「むぅ、ならば弱い神気から慣れさせて育成するか」
『お父様、今回は検証が重要とあれ程言うたではありませぬか!』
今、素戔嗚命様の後頭部の空間が歪んでハリセンが出現。小気味よい音を響かせて素戔嗚命様の頭を叩いたような・・・それに宇迦之御魂神様のお声も届いたよな?
「くっ、我が娘ながら容赦というものを知らぬな。もう少し手加減しても・・・」
「素戔嗚命様、宇迦之御魂神様の追撃が飛んでくるのではないですか?」
あれが俺の幻覚や幻聴でなかったとしたら、この会話もお聞きになられていて更にハリセンで追加攻撃される可能性があると思うのだが。
素戔嗚命様もそう思われたのか、宇迦之御魂神への愚痴を止めて口を閉ざしてしまわれた。あのハリセン、結構効いたようだ。
「素戔嗚命様、二十八階層には鉄カブトという熊のモンスターが出現致します。あ奴は素戔嗚命様好みの戦い方を致しますので・・・」
「そ!それは楽しみであるな。早う進むとしようぞ」
素戔嗚命様がダンジョンを進むとどうなるか確認する為に宇迦之御魂神様がご覧になっている事は知っていたが、よもやお言葉とハリセンを送ってこられるとは思わなかったな。
迷い家の入り口は開いていなかったし、神社を経由した訳ではなかったようだ。これはダンジョンに対する研究が進んでいるという事なのかな。




