第九百二十二話
「わはははははは、足りぬ、足りぬぞぉぉぉぉ!」
「素戔嗚命様、そちらでは御座いませぬ!」
足りぬと言いつつ満面の笑みを浮かべてモンスターを轢いていく素戔嗚命様。そして魔石を拾いつつついて行き次の階層への渦の方向を示す俺。どうしてこうなった。
低階層のモンスターなど素戔嗚命様にかかれば羽虫も同然。神気を纏った御身体に触れるだけで即座に消し飛んでしまう。
これが野生の動物ならば恐れをなして逃げ惑うのだろうが、ダンジョンのモンスターは侵入者を試す為に襲うよう組み立てられている。
なので素戔嗚命様に襲い掛かるが触れると同時に消滅。戦闘にすらならず素戔嗚命様は爆走するという構図になっているのだ。轢いていくと表現した所以がこれである。
低階層では比較的強い部類の青毛熊ですら素戔嗚命様の拳に触れる事すら出来ず、纏われた神気に触れただけで消滅した。防御力が売りの落とし亀も以下同文。
「これでは全く戦った気がせぬ。何とかならぬのか?」
「まだ低階層故、素戔嗚命様の神気に耐えられるモンスターなどおりませぬ。お待たせ致しました。オーク肉のトンテキに御座います」
昼時になったので一旦迷い家に引き上げて昼食を取ることに。素戔嗚命様は飲食せずとも活動出来るのだが、それも楽しみの一つという事で一緒にお召し上がりになる。
「うむ、玉藻殿の料理は美味いのぅ。我が狩った獲物と思うと更に美味い!」
上機嫌で特大トンテキをお召し上がりになる素戔嗚命様。このオーク肉は素戔嗚命様が轢いたオークがドロップしたお肉なのが一層気に入られたようだ。
「玉藻じゃ。地上の様子はどうじゃった?」
『玉藻様がダンジョンに入られた後、ダンジョンより強い気が流れ出るのを感じました。なので部隊を少し下げまして御座います』
素戔嗚命様がオーク肉の豚カツをあてに奉納された日本酒を御召になっている間に地上の先輩に電話して様子を確認した。迷い家を出していないと地上と連絡が取れない為、どうなっていたかを知る事が出来なかったのだ。
「こちらは現在十階層じゃ。深く潜ると神気が薄まるやもしれぬ。危険じゃが観測を頼むぞえ。じゃが、決して無理はせぬようにな」
ダンジョンから漏れ出る神気の観測は重要任務だ。神々からのご依頼でもあり、先輩方が無理をしないかが少し心配になる。
「素戔嗚命様、やはり地上に影響が出た由に御座います。ですが、多少神気に耐性がある者達ならば倒れる程ではないと」
「そうか。この程度なら問題ないのじゃな。更に深い階層ならば更なる解放も可能かのぅ。早く何も気にせず暴れたいものよ」
階層が進めば地上への影響も薄くなって素戔嗚命様がもっと神気を流しても大丈夫かもしれない。だけど、同行している俺が全開の神気に耐えられるかが疑問なんだよな。
素戔嗚命様の神界に出入りしているのだから大丈夫と思うかもしれないが、普段の暮らしで漏れている神気が漂っているのと御本人が意識して出している神気では濃さが違うのだ。
「玉藻殿、そろそろ次の階層に進もうぞ」
「はっ、素戔嗚命様の御心のままに」
神域から出る事もない神々もストレスが溜まっているのかもしれない。そう考えると素戔嗚命様がはっちゃけるのも無理はない、のかなぁ・・・




