第九百十八話
日は進み素戔嗚命様が水中村ダンジョンに顕現なさる当日。俺は陸軍指し回しの車両で現地に向かったのだがちょっとした騒動が起きていた。
「お願いしますよ。ちょっとだけ、ちょっとだけでも撮らせて下さいよ」
「ダメだダメだ、ここから先は入る事まかりならん」
ダンジョンから少し離れた場所で陸軍沼田駐屯地から応援に来てくれた部隊が規制線を張っているのだが、そこに押しかけたマスコミ連中と揉み合いになっていた。
「神が顕現なさるなんて世紀のイベント、カメラに収めないなんて臣民が許しませんよ」
「帝国臣民は素戔嗚命様が顕現なさる瞬間を見たがっています。その願いを踏みにじるなんて、陸軍は臣民の知る権利を何と心得ているのですか!」
この間誤報の件で幾つかのマスコミか総務省から厳しいお仕置きをされたばかりの筈なのだが、もう息を吹き返しているようだ。
昔から二度あることは三度あると言うけれど、こいつらの場合三度どころか十回でも二十回でもありそうだと思うのは俺だけだろうか。
「止めておけって、無理矢理ダンジョンに入っても、まともに撮影なんて出来っこないから!」
「総務省お気に入りのいい子ちゃんは言う事が違うな。うちだけはルールを守ってますって優等生アピールか?」
「そりゃ、お前の所は特別扱いされて特ダネ独占してるからな。優遇されてる局のクルーは余裕だな」
よく見ると、マスコミの中で仲間を止めている会社が一社だけあった。会話の内容からするにマイペースなあの局だろう。
「そんなんじゃないって。俺達は大宮氷川神社で玉藻様が神界に渡られた際の撮影を許されたが・・・玉藻様が神界に出入りする際に漏れた神の気だけで失神したぞ」
「はっ、そんなの俺達に特ダネを掴まさないための嘘だろう。違うと言うなら証拠を出せよ」
証拠と言われても出せる筈がない。黙り込んだクルーに他の社のクルーはドヤ顔で勝ち誇る。これは介入して解決しておいた方が良いかな。
「そなたらの望み、叶えて進ぜよう」
「だっ、誰だ!・・・えっ、神使様!」
マスコミ達は口論に熱中する余り、俺が乗った車が来ていた事に気付いていなかった。前世にあったガソリンエンジン車ならば駆動音で気付いたかもしれないが、魔石エンジン車は走行音がほぼ無いので気付かれない場合もある。
それはそれで車が来た事に気付かない歩行者とのトラブルになるという欠点となるのだが、それをここで論じても意味がないので話を進めよう。
「その者達の言は間違えておらぬ。只人が濃厚な神気を浴びれば、最悪命を落とす事になるのじゃ。一度試してみるかえ?」
とは言ったものの、マスコミならば俺の言葉を信じないだろうな。彼らは自分達の考えが絶対に正しいと思い込む生き物だから(ただし一部の例外あり)。
「それは是非ともお願いしたいですな。神使様の神気を浴びるなど望んでも得られぬ栄誉に御座いますれば」
ならば体験してもらおうか。そのまま放つと陸軍部隊の人達やまともなマスコミを巻き込むから、立ち位置を変えて彼らに神気が届かぬよう調整する。
これは彼らが望んだ事だ。これで失神して以降の取材が出来なくなっても自己責任という事で。




