第九百十二話 とあるテレビ局にて
ここはとあるテレビ局の編成室。壁面に並んだモニターは宮内省からリアルタイムで送られてくる会見の様子が映し出されていた。
「おい、これってヤバくないか?」
「あ、ああ。もしあれが捏造ならば、それを流した俺達は神敵って事になってしまう」
「捏造ならばって、玉藻様がカメラの前で言い切ったじゃないか。素戔嗚命様から直々に神託を受けられた神使様のお言葉だぞ、疑う余地なんてあるものか」
自分達が派遣した中継クルーが送ってきた映像は、自分達への死刑宣告に等しい過酷な内容であった。それを見る編集部の局員の顔は真っ青になっていた。
「ど、どうしよう・・・このままじゃ俺達、逮捕されるかも」
「ばっ、馬鹿野郎!神々の敵と認定されるんだぞ。逮捕程度で済むわけが無いだろうが!」
実際には神敵に対する法という物が存在しないので、神敵が理由で逮捕されるという事は無い。帝国は法治国家であり、祭祀国家ではないのだ。
「兎に角、俺達は上の指示を受けて上が望む通りの番組を作り放送したんだ。上からの指示を待つしかないだろう」
上からの指示に従った結果が神敵認定の危機となっているのだが、彼らにはそれに気付くだけの精神的な余裕が存在しなかった。
そして、中継される会見を見て自分達の危うさに気付かされたのは現場の局員だけではなかった。提供された情報を鵜呑みにし、調子に乗る陸軍を叩けると有頂天であった局幹部も中継を見てかなり動揺していた。
「おっ、おい、あの情報がガセとはどういう事だ!」
「そんな筈はない、あの情報は信用のおける代議士から持ち込まれた物だ」
「じゃあ、神使様が嘘をついているとでも言うのか?」
英国産の高級ソファーに身を沈め、高解像度の大型液晶画面にて忌まわしい陸軍が糾弾される様を眺める筈だった幹部達は情報を持ち込んだ幹部を問い詰める。
「こうなったら、早急に対策を打たねばなるまい。総務省の追及を何とか躱すのだ」
「そうだな。前回の件から見るに、総務省は今回も容赦なく処分を下す可能性が高い。防げぬまでも、被害を最小に抑えねばならぬ」
「こちらが発信した情報の正誤には触れず、総務省と宮内省の強引な方針を咎める方向で行こう。報道の自由を侵す野蛮な行為だとな」
幹部の一人が発した案はすぐに現場へと伝えられ、臣民の知る権利を阻害する陸軍と総務省、宮内省を独裁の手先と印象付けるよう指示が出た。
「これで総務省が強行な調査に出たら、不当な弾圧だと喧伝すれば良い。俺達は権力による口封じに屈しない正義の報道機関という訳だ」
「国が強権で来るなら、こちらは臣民の声で対抗する。総務省や宮内省の横暴な行為が今上陛下のお耳に届けばこっちの勝ちだ」
自分達の報道で臣民は国が横暴だと判断する。自分達の報道を陛下がご覧になれば、お優しい陛下は権力に屈しない俺達の正義を認めてくれる。
そんな幻想に取り憑かれた幹部達は、マスコミによる世論操作が未だに有効だと盲信していたのだった。




