第九百六話
欲という物は、時として人を狂わせる。それに大義名分を付けて正当化出来るとなれば、それを押し通す事に躊躇いを持たぬ者も居るのだ。
『陸軍は次に玉藻様が攻略するダンジョンを密かに変更しようとしています』
『次は横浜ダンジョンの予定でしたが、大宮ダンジョンの活況を見た陸軍が占有しているダンジョンを先に攻略させようと企んでいるのです』
翌朝の報道番組では陸軍が利益を得る為に横紙破りをしようとしているかのように報道されていた。これは酷い事実誤認である。
「優、これは誤報か偏向報道だよな?」
「その通り。酷い偏向報道だよ」
誰が漏らしたのかは知らないが、こうなっては父さんや母さんに隠す意味はない。俺は両親に素戔嗚命様から言われたお願いの内容を話した。
「何だ、優が攻略する訳では無いのか。全く違う内容じゃないか」
「俺も同行するかもしれないけど、潜るのは素戔嗚命様だし攻略するかどうかも分からない。テレビの報道内容は虚報と言っても過言ではないね」
大方、素戔嗚命様が潜るダンジョンを変えたい者がリークしたのだろう。リークされた段階で変質したのか、テレビ局が変質させたのかは分からない。
「この前の件でマスコミも少しまともになったと思ったのに・・・」
「テレビ局が情報を歪めたのか、テレビ局に情報が齎された段階で歪められたのか分からない。だからテレビ局を責めるのは尚早かな」
マスコミを庇うつもりは無いが、確定していない事項で責めるような真似もしたくない。それをやってはマスコミと同類になってしまう。
「取り敢えず、陸軍と宮内省から抗議が出て正しい情報を公表する流れかな。情報部の先輩方が秘密裏に動いていたのが台無しだ」
先輩方の働きが無になった訳では無い。しかし、情報を伏せなくて良いならば動くのは情報部である必要が無かったのだ。
「いったい何処の馬鹿が情報を漏らしやがった?」
「絶対に割り出して報いを与えてやる!」
情報部に出勤すると、案の定先輩方が殺気立っていた。しかし俺の顔を見るなりその殺気が霧散する。
「おはよう、滝本中尉。昨日は楽しかった、ありがとう」
「俺達の心配までしてくれるとは、本当に良い後輩をもって幸せだよ。俺達の足を引っ張る馬鹿な権力者が居なかったり、上司が代休をくれればもっと幸せなんだがな」
昨日のバーベキュー大会だけでは先輩方のストレスは解消しきれなかったようだ。日頃の業務によりストレスが溜まっている事が伺える。
「おはよう滝本中尉。来て早々に仕事の話で無粋なのだが、宮内省に同行してほしい。あちらも今朝の報道にブチ切れているようだ」
「神々の意向をねじ曲げて報道するなんて、文字通り神をも恐れぬ愚行ですよね。テレビ局は曲げられた情報を得てそのまま報道したのかもしれませんが、裏取りしない段階で有罪ですよ」
斜陽とはいえ、テレビはまだ臣民に大きな影響力を持つのだ。真偽の確認もせずに報道したなら、その責任を取ってもらわないとね。




