第九百五話
「大漁じゃあ!タイにヒラメ、ハマチにカワハギまで捕れたぞ!」
「こっちはイノシシだ。見ろ、この程よく付いた脂肪を。これは絶対に美味いぞ」
その日の夕方、俺と関中佐は好きな事をして楽しむ情報部の先輩方を迷い家の砂浜に設置されたバーベキュー会場で眺めていた。
「玉藻様、ありがとう御座います。彼らも良い息抜きになっているでしょう」
「なんの、礼には及ばぬ。ああいった連中が相手ではストレスが溜まりまくるじゃろう」
部長室で話した後俺は関中佐について根回しに同行したのだが、兎に角疲れた。相手がこちらの話を聞かず、自身の思い込みに基づいて自身の利益のみを優先するのだ。
情報部部長と神の使いに対してこの態度だ。他の先輩方に対してはもっと横柄な態度の者が多いに違いない。
そう考えた俺は先輩方を一度情報部に戻してもらい、息抜きの為のバーベキュー大会を急遽開催する事にしたのだ。
急な思いつきによる開催だが、道具はあるし調味料も無限に調達出来る。食材も自給自足出来るので何ら心配する事は無い。
食材に関しては玉藻持ちで購入してきても良かったのだが、ストレス発散を兼ねて狩りに行きたいと言われてしまったのだ。
「このような気遣いをしていただいて、予算まで玉藻様に甘えるなんて出来ません」
「魔石の代金などで預金残額が恐ろしい事になっておるのじゃ。なので減らしたいという意図もあったのじゃがのぅ・・・」
先日コンビニで久々に玉藻名義の探索者カードを使用したのだが、その後残額を確認して現実逃避したくなった。
滝本優が一生掛かっても使い切れないだろう金額が明記されていたのだ。玉藻なら寿命が長い(と言うか、寿命あるのか?)ので使い切るかもしれないが、ダンジョン攻略をしていれば更に増える事が予測出来るのでやはり使い切れないだろう。
「・・・玉藻様、お金をお使いになられませんからね」
「コンビニに立ち寄ればあの騒動じゃからな。ショッピングモールやデパートに行くにも大仰な護衛が必要じゃろう」
玉藻ではなく滝本優で行けばバレないかもしれない。だが、一応VIPという事になっているので周囲がお忍びを許してくれないのだ。
「お金はあっても使う機会がない、ですか。これは宮内省に相談して対策をするべきですな」
「中佐、それなら俺達の代休問題も解決して下さい!約束してた代休、また貰ってません!」
俺達の話が聞こえていたらしい先輩の一人が関中佐に詰め寄る。中佐、年末年始の休みが潰れた代休をまだ出してなかったのか。
「おぉい、イノシシは皮を剥いだら川に浸けておけよ。後で迷い家から全員が出て最適化をしてもらうからな」
関中佐は先輩に答えず、立ち上がりイノシシを捌いている先輩の方に歩いて行ってしまった。先輩は追いかけて行ったが、誤魔化される可能性が高そうだ。
その後、迷い家さんの最適化でイノシシ肉の冷却と熟成も問題なく終わり、俺達は迷い家産の海と山の幸に舌鼓を打った。
尚、後にそれを知った今上陛下が駄々をこね、侍従長さんから非公式な苦情が届いたのだがそれは別の話である。




