第九百四話
翌日情報部に出勤した俺は、部長室で関中佐から意外な話をされてしまった。
「素戔嗚命様に貸し出すダンジョンを水中村ではなく他の場所に、ですか」
「浅ましい話ですが、一部でそう言う要望が出ています。理由はこれで・・・」
中佐がリモコンを手に取りテレビの電源を点ける。テレビにはワイドショーが映っていた。話されているのは大宮ダンジョンについてだ。
『このように、神使様が攻略なされた大宮ダンジョンは多くの探索者で賑わっています』
『潜った探索者は多くの戦利品を持ち帰っているようです。一説によりますと、ギルドで換金された魔石は神使様が攻略する前に比べると倍以上に増えているとか』
画面では大勢の探索者が袋に詰まった魔石やレアドロップした物品を換金する様子が映し出されている。彼らは普段より多い収入を得て嬉しそうだ。
「大宮ダンジョンのように探索者が増え、魔石の収量も増えるなら水中ダンジョンのような僻地は勿体ない。もっと利便性の高い場所にするべきだとの意見が出たのです」
「しかし、素戔嗚命様の神気が地上に影響を及ぼすかもしれません。それを考えると水中村が最適かと」
「それには同感です。しかし、彼らは付近に民家が少なければ大丈夫だろうと過疎化しているダンジョンを推しているのです」
中佐が渡してくれた貸し出し候補のダンジョン一覧を見る。場所だけ見てもそこがどんな場所だか分からないが、俺の地元だった桶川ダンジョンもある事から似たような立地だと推測出来る。
あそこは荒川の河川敷に近く、付近に民家も建っていなかった。確かにあそこなら影響は少なそうだし、階層選択が出来るようになれば過疎化も解消してギルドも助かるだろう。
「過疎化しているダンジョンが人気ダンジョンになれば、氾濫防止の為に潜らせている部隊を別のダンジョンに振り分ける事が出来ます。なので軍内でも揺らぐ者が出ていまして・・・」
「素戔嗚命様はどこのダンジョンでも気になさらないでしょう。なのでこちらの都合で決めて良いと思いますが、早く決めた方が良いでしょうね」
もし素戔嗚命様の神気が地上まで漏れて付近の住人が倒れる事態になった時、そこを推した人達がその責任を取れるのか。まずはそこをはっきりさせたい。
利益は享受するけど不利益があっても目を逸らしそれに対する補填を行わない、なんて事はあってはならないのだ。
「もしもの事態が発生した時、そこを推した人達はきちんと責任を取ってくれそうですか?」
「滝本中尉、マスコミと政治家に己の言動の責任を取れというのは突撃豚に芸を仕込むより無茶な要求ですよ」
滅茶苦茶真顔で返された答えがこれである。マスコミの方は兎も角、政治家にこれを聞かれたらマズイと思うのだが。俺も同感だけどね。
「もし何かが起きたら、話を持ってきたのは陸軍なのだから陸軍が責任を取れと言ってくるに決まっている」
「素戔嗚命様に責任を問うのは論外で、玉藻も同様。自分も責任を取りたくないとなれば、消去法で陸軍に責任を擦り付けると言う事になりますね」
想像でしかないけれど、そうなる可能性は高いだろうな。やはり水中村ダンジョンにするのが最良だ。




