第九百一話 とあるコンビニにて
「ふう、大したものだな」
「ですね、店長。まさかダンジョンが完全に攻略されるなんて夢にも思いませんでしたよ」
ここはとあるコンビニエンスストアの休憩室。そこでは四十を超えているだろう店長の男性と、まだ二十代と思われる若い男性が話していた。
「何でも、完全に攻略すると潜る階層を指定出来るようになるらしいな」
「ですね。そうなったら他の人の攻略も進みますし、アイテムの産出量も増えますね」
皇居ダンジョンの攻略が発表された際、それらの情報も公表されていた。しかし、一般人が潜れない皇居ダンジョンである事もあり、一般人には今一つ重大事項だと認識されていなかったのだ。
しかし、今回は誰でも潜る事が出来る大宮ダンジョンの話だ。マスコミやネットでは大々的に取り上げられ、実際に階層選択を体験した探索者の生の声がネット上を駆け巡った。
「まあ、戦闘系スキルを持たない俺達には縁がない話題だがな」
「店長、それを言ったらお終いですよ。あっ、そろそろ行かないと」
若い男性は休憩室を出て店に通じる通路を歩く。今レジに入っているバイトと交代する時間になっていたのだ。
「お疲れ様、何か変わった事はあったかい?」
「お疲れ様です先輩。何も変わらない、いつもの仕事だけですよ。変わった事なんて起きる筈無いですって」
レジに入っていた男性が答え、入れ替わりでバックヤードに向かう。彼はいつも通りの接客をして、いつも通りの品出しをした。いつもと同じルーチンを過ごしただけだった。
「店長、先輩と変わったのでこれで上がりますね」
「おう、お疲れ様。明日のシフトもよろしくな」
今日の仕事を終えた若いバイトは、店長に挨拶をして奥のロッカールームで着替える。私服になった若者はさっさと裏口から出ていった。
一人になった店長がスマホでお気に入りのネット小説「転生侵略者の日常」を読もうとページを開いた時、レジに入っているバイトの叫び声が耳に届いた。
「店長ぉぉぉぉ!」
「何なんだ騒々しい。そんな大声を上げたらお客様からクレームが入るだろうが」
この若者はバイト歴が長く、店長が目をかけている人材だった。そんな若者が大声で叫ぶという醜態を見せている事に疑念を持つべきであったのだが、お気に入りの小説を読む邪魔をされて店長は少し不機嫌だった。
「し、しん、しん・・・」
「何があったんだ。コンビニ店員たるもの如何なるお客様にも変わらぬ態度で対応し、もしもコンビニ強盗に遭遇しようとも冷静に対処すべきといつも教えてぇぇぇぇぇっ!」
バイトに腕を引かれながら説教をしていた店長だったが、バックヤードから店に入った途端、奇声を上げて固まってしまった。
「店員さん、戻って来ぬなぁ。アイスが溶けてしまわぬじゃろうか」
店の中はいつもと同じだった。しかし、いつもと違うのはレジの前で所在なさげに佇む一人の・・・いや、一柱のお客の姿だった。




