第八百九十九話
「陛下、御身をお守りする為にどれだけの人が動いているかご承知なされていますね。にも拘らずお出ましになると仰るので?」
「あっ、いや、玉藻殿の迷い家ならば護衛も要らぬ故・・・」
日頃の鬱憤を晴らすかのように陛下に対して説教をしだした侍従長さん。対する陛下は何とか侍従長さんを宥めようとするが、それは火に油を注ぐ結果になりそうだ。
「迷い家の神気が増えた結果、長時間の滞在は危険だと陛下も報告を受けている筈です。神の気により迷い家に滞在出来なくなりましたらどうなさるおつもりで?」
「えっ、そ、それは、迷い家に滞在する事で慣れる事も可能と報告されておる。今から迷い家に滞在し神の気に慣れれば・・・」
侍従長さんからの追及を辛くも躱す今上陛下。しかもそこで迷い家での滞在を正当化するという利の主張までやっている。
「その間、玉藻様を皇居に滞在されるよう要請しろと仰るのですか。玉藻様は素戔嗚命様からのご依頼で多忙になられるでしょう。それを踏まえた上でのご発言で御座いますか?」
今上陛下会心の反論も、呆気なく侍従長さんにより切り捨てられてしまった。実務は関中佐に、根回しも先輩方や鈴置中将にお願いするつもりなので俺自身はそう忙しくなくなると思う。
しかし、それをここで口にするとこちらにまで飛び火してきそうな気がする。なのでここはお口にチャックをさせてもらう。
「玉藻様、鈴置中将、関中佐。宮内省への根回しは私から手配しておきます」
「えっ、あっ、済まぬな侍従長殿。素戔嗚命様には侍従長殿の献身をお伝えする故よしなに」
俺達は何も見なかった。縋るような目で俺達を見る今上陛下は視界に入っていないのだ。そう自分に言い聞かせて陛下の御前から退出する。
「鈴置中将、将官への根回しを頼みます」
「うむ、それは構わん。念の為陸軍大臣と共に閣僚の方々や各省庁への根回しも行おう。中佐は神使様をお送りしてくれ」
内閣府に出向くという鈴置中将とはここで分かれる事になった。中将は別の車を手配し、俺達は乗ってきた車で市ヶ谷に戻る事となった。
「玉藻様、何か憂慮なされる事案がおありで?」
「いや、無いと言えば嘘になるが今は考えるべきではないでのぅ」
今上陛下が神気に慣れておくべきという発言をしたのを思い出し、陛下の魂も神々にスカウトされるのではないかと考えてしまったのだ。
しかし、それを今考えてもどうにもならない。そして、それを関中佐に言った場合どんな影響を及ぼすのかが想定しきれない。
信仰心が高いこの世界の事だから、今世が終わってから神々にお仕え出来るのは光栄至極!という方向に行くだろうとは想像出来る。
神気への耐性と、それによる神域のスカウト問題。どこまで明かし、どこまで秘匿するべきか。こればかりは誰かに相談するという訳にはいかない。
まあ、その問題は未来の俺に託すとして、今は目先の事であるダンジョン貸切事案に集中するとしますかね。




