第八百九十七話
俺と舞とアーシャ、三人で一緒に渦に入る。するとすぐに転移せず、三十九階層に戻るか地上に戻るかの選択肢が現れた。
「こんな表示が出るんだ」
「地上に戻るを選択するのじゃ」
選択肢を選ぶ役を舞にさせて地上に戻る。期待に満ちた目で見られたら、任せる以外の選択肢は無かった。
「おおっ、玉藻様が戻られたぞ!」
「「「「うおおおおおおおおおおぉっ!」」」」
景色が一瞬で変わり地上に戻った瞬間、叫び声がしたと思ったら大勢の歓声が俺達を襲った。咄嗟に頭上の耳を伏せて受ける音圧を下げる。
「玉藻様、ありがとう御座います。大宮ギルド一同を代表してお礼申し上げます。皇女殿下と妹御もありがとう御座いました」
止まぬ歓声の中、集まった人達から一歩前に出て俺達に礼を述べたのはここのギルドのギルド長だった。
「うむ。じゃが、この成果は神々のご助力あっての事じゃ」
「無論、神々への敬意と感謝も忘れませぬ。しかし今はダンジョン攻略を成し遂げた皆様に最大限の感謝を」
深く頭を下げるギルド長。それに合わせて集まった人達から拍手が沸き起こる。こんな出迎えを受けるとは思わなかったので、少々面食らってしまった。
「感謝の念は受け取らせてもらう。妾達は陛下や軍に攻略達成の報告をせねばならぬ。これにて失礼させてもらうぞえ」
集まっている探索者達が口々に感謝を述べている。その気持ちは嬉しいのだが、キリがないのでお暇させてもらう事にしよう。
探索者達が自発的に左右に分かれ、俺達が通れる道を形成する。その道を拍手と感謝の言葉に包まれながら歩く。
「お姉ちゃん、こんなに人が集まっていると思わなかったわね」
「そうじゃな。恐らく設定変更に気付いた者がギルド長に報告を入れたのじゃろう」
ギルドから出てみれば、外にまで人だかりが出来ていた。まだマスコミは来ていないようだか、うかうかしていれば集まって来るに違いない。
「舞、アーシャ。空歩で帰る故迷い家で待機するのじゃ」
「このまま電車で戻ったらえらい事になりそうね。アーシャちゃん、入りましょう」
迷い家の入り口を開き、舞とアーシャが入る。それを見た観衆からどよめきが発せられた。そう言えば、衆人環視の中で迷い家を開くのはこれが初めてか。
歓声に見送られ空へと駆け上がる。懐からスマホを取り出して、ダンジョン攻略が終わり市ヶ谷に戻る事を関中佐にメールで報告する。
空中ならば車も自転車も居ないので、歩きスマホをしても事故に遭う心配はない。飛行機やヘリにぶつかる可能性はあるけど、この世界では前世より遥かに機数が少ないからその可能性もほぼ無い。
まずは迎賓館に降りて舞とアーシャを迷い家から出す。二人が迷い家に居たままでも支障は無いが、軍と陛下への報告で時間がかかる。迎賓館に帰しておいた方が良いだろう。
そこを迎賓館で張っていた記者に目撃されてしまった。マスコミが取材に動くだろうけど、流石にまだ以前のような傲慢な取材はしないだろう。




