第八百九十六話
「しかし、神域には眷属の方々がお仕えしている筈。態々人族の魂をスカウトするのは手間なのでは?」
「玉藻殿、眷属にも世代交代はあるのじゃ。そして少子高齢化が問題になっておるのは人の世だけではない」
なんと、神々の世界でも少子高齢化が問題になっているようだ。神代から生きる神々が御高齢なのは言うまでもない事だけど、眷属の方々の寿命とかどうなっているのやら。
「そなた、自身の身を考えてみよ。異界の出とはいえ、元は人の魂じゃろうに」
「あっ、他でもないこの妾が人の魂がスカウトされて眷属となった例ですな」
八意思兼様のツッコミに、自身がその例である事を自覚した。自身の事が見えてなかったとか、我ながら間抜けすぎる。
「ほれほれ、そこまでにせんと玉藻殿に迷惑じゃぞ。どの道彼女らをスカウトするのは人の世の命数が尽きた後なのじゃ。まだ時はあろうに」
「あっ、今すぐという訳では無いのですね」
「我らは人の世の営みを止めさせて連れ行くような真似はせぬ。他の者共もこの二柱を敵に回してまで連れ去ろうとはせぬじゃろう」
そう表現するという事は、他の神では強引に連れ去る事をする神がいると。でも、素戔嗚命様と宇迦之御魂神様と敵対する事は避けるだろうから舞とアーシャが連れ去られる心配は無いようだ。
今回の目的は達したという事で、三柱の神々は各々の神域に戻る事になった。俺はそのまま戻ろうとする神々を呼び止める。
「暫しお待ちを。帝国臣民より預かりし神酒をお持ち下さい」
実は、皇族の方々が迷い家に滞在なされた折に神々に奉納したいと全国から寄せられたお神酒を迷い家に運んでおいたのだ。
「のう、思兼の酒が多いように思えるのは気の所為か?」
「八意思兼様は先程の饗応で飲まれておりませぬ。その分に御座います」
八意思兼様のお土産が少し多いのを見咎めた素戔嗚命様に理由を説明する。増量を命じられるかと思いきや、素戔嗚命様は納得されたようで追加を要求されなかった。
「玉藻殿、使えるダンジョンが決まり次第娘を通じて連絡を」
「畏まりました。軍と政府に話を通し、速やかに御用意出来るよう全力を尽くしまする」
膝をつき消えゆく三柱の神々を見送る。俺の後ろでは尻尾に守られた舞とアーシャも同様に膝をついて神々のご帰還を見送っていた。
彼女らにもお酒を運ぶのを手伝ってもらった。本数が多かったので、俺一人では運ぶのに時間がかかると判断したのだ。
舞は慣性制御で多数の酒瓶を一気に運び、一度で運び終わってしまった。その対価に尻尾の独占権を要求されたとしても、甘んじてそれを受け入れる所存である。
「さて、後は渦から地上に戻るだけじゃな」
戻ったら素戔嗚命様の御意向を軍と政府に伝えなければならない。また忙しい事になりそうだけど、実務は有能な上司が引き受けてくれるでしょう。
関中佐「な、何だか悪寒が・・・」




