第八百九十五話
用意していた料理と酒が空になり、迷い家からダンジョンに移動する。作業前でお酒を飲まなかった八意思兼命様にはその分として持ち帰っていただこう。
「さて、少し試しておこうかの」
宇迦之御魂神様と共に残られた素戔嗚命様のお姿が一瞬消えてまた戻る。
「やはり、直接に顕現する事も可能じゃな」
「術の行使による影響は無さそうじゃ。神気を抑えておるからやもしれぬがのぅ」
どうやら素戔嗚命様は一度顕現を解かれて神域に戻り、ここに顕現し直したようだ。宇迦之御魂神様はそれによる影響があるかを確認したらしい。
「ふむ、では少々派手な術を・・・」
「父上、そんな事をして地上に影響が出たらどうなさいまする?父上のお膝元にて暮らす者共を巻き込むおつもりで?」
「むっ、流石にそれはマズイのぅ。続きはダンジョンを用立てた後にしようぞ」
宇迦之御魂神様が素戔嗚命様をお止め下さった。正直言って助かったよ。もし素戔嗚命様がお力を解放されていてら、俺は即座に迷い家に逃げ込んで入り口を消していただろう。
尻尾が五本に増えて神力も増大したとはいえ、俺なんて半端者の半神だからね。神々の中でも最上位クラスの神力をまともに浴びれば、絶対にタダでは済まない。
「そっ、それはそうと玉藻殿。あの娘御はかなり有望だな」
「二人おりますが、妹でしょうか」
娘に窘められた素戔嗚命様は露骨に話題を変えてきた。話を合わせてくれという視線による懇願を受けて俺も話に乗る事にする。
「そちの妹も、ロシア皇家の娘もじゃ。あれならば我が宮にて即戦力として期待出来る程に成長しよう」
「ちっ、父上!玉藻は我が眷属。その身内は妾の宮に誘うのが道理じゃ!」
素戔嗚命様のお言葉に宇迦之御魂神様が反論する。素戔嗚命様、舞とアーシャを神域に勧誘するおつもりで?そして宇迦之御魂神様もそのつもりだった?
「確かに玉藻殿は主の眷属。だが、その身内まで独占するなど前例が無いではないか」
「当たり前です。そも、神域に耐えられる魂が現れる事自体が稀。前例などあろう筈がありませぬ!」
当事者である舞やアーシャのいないこの場で二人の行く末を論じる二柱の神々。まあ、神の御意思の前では人の意思なんて無いに等しいか。
「一仕事終えて戻ってみれば、何をやっておるのじゃ?」
「八意思兼様、ありがとう御座います。素戔嗚命様と宇迦之御魂神が、我が妹とロシア皇家皇女について口論されてしまいまして・・・」
ダンジョンの設定を終えてお戻りになった八意思兼様に現状を説明する。八意思兼様は呆れた表情をしながらも、神域の人事事情を教えてくれた。
「通常、神域に仕える者は神気に慣れる事から始めねばならぬ。上位の神たる二柱の神気に慣れるには長き時がかかろう」
「舞とアーシャは迷い家で神気を受けている故、その期間が短縮出来るという訳でございますな」
ちょっと待って。それって、迷い家が神域に馴染める魂の育成場所として使えるって事にならないか?




