第八百九十四話
お社が輝き、複数の人影が何も無い空間から現れる。俺は平伏しつつ背後で同じ体勢をとる舞とアーシャを守るべく尾を広げた。
「お役目ご苦労じゃな。そこな二人もダンジョン攻略の助力、大義である」
「神命の遂行は我らの義務、宇迦之御魂神様のお言葉、身に余る誉れに御座います」
社から顕現なされた三柱の神々。まずは社の主である宇迦之御魂神様からお言葉を賜った。舞とアーシャに労いの言葉をかける程上機嫌な女神様は、少々神力の抑制が甘くなっているようで神力の中和が厳しい。
しかし、そんな事を言上する訳にはいかないので必死に尻尾に力を込める。それにより膨れた尻尾は普段の倍程の太さになっている。
「この短期間に二つ目のダンジョンを攻略するとは、流石は玉藻殿。早速設定を変えるとしようぞ」
「いや待て思兼、我等を持て成す料理を用意しておるようじゃ。時をかけて冷めては彼女らの意気を削ぐ」
すぐにダンジョンの設定を変えに行こうとした八意思兼命様を素戔嗚命様が止める。
「ささやかでは御座いますが、酒と料理を用意しております。まずはゆるりとお過ごし下さいませ」
俺は舞とアーシャに対して先に建屋に行き饗応の支度をするよう命じる。そして三柱の神々を先導して建屋に向かった。
二人を建屋に先行させたのは、俺が建屋への案内役として神々の前を歩かねばならなかったからだ。二人が後から追随する形だと、俺の尻尾による防御から外れ三柱の神気をそのまま受ける事になってしまう。
神々が抑えてくれているとはいえ、主神級の神力は人の身に影響を及ぼすだろう。それを防ぐ為二人を先行させたのだ。
「玉藻殿、そなたにちと頼みがあるのだ」
「何なりと。素戔嗚命様のご意思ならば、何を差し置いても遂行致します」
この国において素戔嗚命様のお願いを断れる者が居るだろうか。理不尽な頼みをするようなお方ではないし、例え理不尽であろうとも断る事など出来やしない。
「実はのぅ、潰れても構わぬダンジョンを一つ融通して欲しいのだ。出来れば地上に多少の影響があろうとも構わぬ場所であれば望ましい」
「ダンジョンで御座いますか。素戔嗚命様の御意向とあれば陸軍と政府に働きかけを行いまする」
脳裏に一つのダンジョンが思い浮かぶ。現在陸軍情報部が管理していて、何かがあっても付近への影響が少ないダンジョンといえば水中村だ。あそこなら一般人は入っていないし、陸軍の判断だけで素戔嗚命様にお渡し出来るだろう。
「少々試したい事があってな。上手くいけばそなたの負担が減る故、期待するが良い」
「父上、地上への影響が未知数なのじゃ。羽目を外さぬよう頼みますぞえ」
嬉しそうにウニ丼を掻き込む素戔嗚命様を宇迦之御魂神様が嗜める。素戔嗚命様はダンジョンで何をやろうとしているのだろうか。




