第八百九十三話
舞を背負いアーシャをお姫様抱っこして駆け抜ける。本当は二人には迷い家で待機して貰った方が安全なのだが、その方が早いと舞に説得されたのだ。
渦への最短経路とモンスターの出現タイミングをアーシャに指示され、俺が空歩で駆けて舞が攻撃を弾く。この突撃を止められるモンスターは存在しなかった。
とはいえ最終試練対策で各階層一匹だけは倒しておく必要があった為、それで時間を食うのだけは止められない。
複数のモンスターを倒さずに進んだ場合、試練で倒さなかったモンスターが同時に出てくる可能性があるのだ。ストーンワームと大亀が一緒に出てきたりしたらかなり厄介な事になるだろう。
幸い、両者の出てくる階層は草原や荒野といった広いフィールドだったので、一匹倒したら残りは無視して進む事が出来た。
もし洞窟や迷宮で遭遇する相手全てを倒して進むとなったら、どれだけの時間を取られていた事か。いや、逆に天井が低くて奴らは動けなくなるのかな?迷宮フィールドで身動き出来ない大亀さんとか、ちょっと見てみたいかも。
そんなこんなで順調に進んだ俺達は、舞とアーシャの始業式が始まる二日前に最終階層に到着出来た。最終試練もクリアし、後は八意思兼命様に設定を変えてもらうだけである。
「玉藻お姉ちゃん、じゃがいもの皮剥けたよ!」
「こちらに寄越すのじゃ。次は人参を頼むのじゃ!」
舞から受け取ったじゃがいもを適当な大きさに切って次の人参を待つ。その間に鯖を捌いて味噌煮にする準備をしておく。
「玉藻お姉さん、天ぷらの素材の下準備終わりました」
「すまぬな、アーシャ。天ぷらは神々が来られてから揚げ始めるとしようぞ」
ダンジョンのクリアを目前にしながら料理に血道を上げる俺達。何をやっているのだとツッコミを入れられそうだが、神々をお招きする以上饗応の準備はせねばなるまい。
前回は母さんが用意していた昼食用の料理を流用出来たが、今回は母さんが同行していない。なので俺達で神々への料理を作っておく必要があるのだ。
「お姉さん、煮込むのは私がやるから宇迦之御魂神様にお願いを!」
「そうじゃな、宇迦之御魂神様に八意思兼命様のお出ましをお頼みしてすぐに顕現なされるとは思えぬ。少し早めにお頼みしておこう」
「じゃあ、舞は網焼き用のウニやハマグリを取って来るね!」
俺が社に向かっている間に、アーシャが料理の続きを受け持ち舞が追加の食材を調達してくれる。二人に残って貰って本当に良かった。これを俺一人でやっていたら結構忙しい事になっていただろう。
「宇迦之御魂神様、大宮ダンジョンの最下層に到着致しました。八意思兼命様にお伝え願います」
『うむ、大義である。既に思兼はここで待機しておる。それとのう、また父上も同行すると申されておるのじゃが・・・』
「尊きお方にお越し願えるのはこの上ない誉れ。母がおりませぬ故前回より拙い持て成しでありますが、精一杯の歓迎をさせていただきます」
俺の返答に、宇迦之御魂神様が安堵したのが伝わってきた。宇迦之御魂神様、断れなかったのだろうなぁ。




