第八百九十一話
「毛艶が今一つ、柔らかさも足りない」
「容赦ないのぅ・・・」
アーシャに二十五階層への渦を探してもらっている間に、俺は一匹の幻狐を捕まえていた。幻惑するしか能がない狐さんなので、捕まえて本体を拘束してしまえばさほど脅威にはならない。
幻狐に出来るのは噛みつきや引っ掻き攻撃くらいだが、抱え上げられて力が入らない引っ掻きでは俺に傷を付ける事すら出来ない。
そんな幻狐の尻尾を批評しながらモフる舞。俺達の周囲には入力された慣性をそのまま返すフィールドが形成されているので、幻狐は近寄る事も出来ない。
「酷評する割には熱心にモフっておるな」
「それはそれ、これはこれだよ。極上のパフェを食べた事があるからと言って、コンビニのスイーツを食べないなんて人は少ないと思うよ」
確かに、俺も自分の尻尾のモフモフが最高だと自認しているがニャンコをモフらないかと言われればモフると即答するしな。
「玉藻お姉さん、渦の場所見つけました。それと、宝箱もありましたけど・・・」
「宝箱は魅力じゃが、進むのを優先したいのぅ」
「でも、渦への最短距離のルートから近いですよ」
アーシャが言うには、宝箱に寄ってもかかる時間は三十分程度しか変わらないそうだ。其れ位ならば寄り道しても大差無いだろうという事になり、宝箱も回収する事になった。
尚、捕まえた幻狐の尻尾はアーシャによりモフられている。アーシャが千里眼を使っている間に舞がモフっていたので、アーシャと交代したのだ。
「もう一匹捕まえれば舞もモフれるのに」
「こいつで妾の両腕は塞がっておるでな。舞では幻狐の引っ掻きで傷を負うじゃろうし、我慢せい」
舞が慣性制御で幻狐を固定するという手もあるが、それをやって俺達を守っている慣性制御が疎かになっては困る。
「あっ、ありました。あの蔓草の下です」
「あの木じゃな・・・これはアーシャがおらんかったら見つからんな」
その宝箱は木の根に挟まるように鎮座していた。それを繁殖した蔓草が隠していたのだ。神炎さんで蔓草を焼き、初めて宝箱が見えるようになった。
「アーシャが見つけたのじゃ。アーシャが開けるとよい」
舞も反対しなかったので、アーシャが開ける事に。この階層の宝箱なら噛み付いてくる事は無いだろう。
「それでは・・・えっ、竹?」
宝箱の中に入っていたのは、短い竹の筒だった。太さと長さは五百ミリのペットボトル程度で、一つの節で切られている。
「ただの竹筒とも思えんな。単純に考えれば水筒じゃろうが・・・」
「地上で鑑定してもらってから使う方が良いわよね」
正体不明のアイテムをゲットするというハプニングがあったが、二十五階層への渦に無事到着する事は出来た。
舞とアーシャにモフられまくり抵抗する気力を失った幻狐さんは神炎の力で魔石へと変わってもらった。どんなにモフモフだろうともモンスターなのだ。ダンジョンの掟は非情である。
「舞、アーシャ。今日は散々幻狐をモフったのでは?」
「「別腹です!」」
幻狐をモフりまくった舞とアーシャだが、その夜しっかりと俺の尻尾もモフった事を追記しておく。




