第八百八十八話
まずは俺がダンジョンに入り、次いで舞が来て最後にアーシャが入った。迷い家の入り口は消さずに出したままにしておく。そうすれば背後から急襲される事は防げるし、すぐに退避する事が出来る。
「それなりの数を狩っておいたのじゃが、油断するでないぞ。どれだけの数がおるかわからぬでな」
「わかってるよ玉藻お姉ちゃん。と言ってる側から一羽来た!」
石柱の影から飛び出し頭上からの奇襲を試みた影兎が、慣性制御で動けなくなりジタバタと藻掻いている。
その仕草は滑稽で可愛いのだが、見た目で騙されてはいけない。彼らは多くの探索者を退けてきたハンターなのだから。
「いくら何でも、襲ってくる頻度が高すぎない?」
「ここに足を踏み入れたのは、ダンジョンが転移してきてからは妾達が初めてじゃ。誰も間引きをしておらぬからのぅ」
モフモフな兎さんが次々と跳んで来る、と言うとほのぼのとした光景を思い浮かべがちだが、この兎さん達は油断すると深い裂傷を与えるのだ。
「玉藻お姉ちゃん、神炎さんで頭上から照らしたら無影灯みたいにならないかな?」
「一人なら出来るやもしれぬな。じゃが、今回のように複数人おると別の者の影が濃く大きくなってしまうぞえ」
それぞれに付けた神炎さんが複数の光源となってしまい、複数の影を作る原因になってしまうだろう。そして光を強くすれば、影も濃くなってしまう。
「お姉さん、出来ました」
「では迷い家に撤退じゃ。疾くと引くのじゃ!」
アーシャが叫ぶと同時に迷い家に撤退する。いつでもどこでも安全な場所に逃れられる。迷い家さん有能過ぎです。
「初めてにしては上手く出来たかな?」
「舞よ、十分に美味しいぞえ」
居間に座って一休み。おやつは舞が作ったみかんのシロップ漬けだ。精神的に疲弊した身にみかんの甘酸っぱさが染み渡る。
「これが地図です。結構入り組んでますね」
「影兎の奇襲に備えながらこの広大なマップを歩くのは、かなり骨が折れそうじゃのぅ。アーシャがおらなんだら、どれだけの時間がかかっておったやら」
これ、俺達以外の一般の探索者だったら抜けられないのではないかと思ってしまう。ゴールの位置が分かっていてもかなりキツイぞ。
「玉藻お姉ちゃん、ここって階層選択出来るようにしてもこの先に行ける人って少ないのでは?」
「そうじゃなぁ、例の擬態するモンスターの利用価値次第にもなるじゃろうが・・・」
黄金虫目当てで三階層が賑わっているように、十八階層でのレアドロップ次第では探索者で賑わうかもしれない。
「えっ、あそこのレアドロップはハズレの紙じゃないの?」
「あれは宝箱に擬態しておったからじゃろう。まあ、予測に過ぎぬ故、他の物に擬態したモンスターもレアドロップはハズレの紙という可能性もあるがのぅ」
もしそうだったなら、研究目的の探索者以外は十八階層に来ようとしないだろう。そこは今後の検証で明らかにするしかない。
「念の為関中佐に報告して判断待ちじゃな」
「じゃあ、その間ここで待機ね」
関中佐に報告を入れ判断を待つ間、舞とアーシャによる尻尾モフモフタイムが繰り広げられた。尻尾が少し細くなったように感じるのは気の所為かな?




